光冠を投げ捨てよ

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「後悔してるのか」 肩がびくりと跳ねた。怒りや憎しみなどは欠片もなく、与太話でもする様に投げかけられた声はかすれていた。 震えながら何も返さないでいると、ふ、と小さく笑う音がした。 ミィナは古びた木の盆を持ってその場を逃げ出した。 石で出来た階段を駆け下りる彼女の顔は青白い。廊下を少し走って、詰まりかけていた喉からようやく息が漏れた。 ミィナは片手で頭を抱え項垂れた。 (私の、私のせいじゃない…!) 守り人の妻という役職を無くしてしまったミィナは、代わりに自らが摘発した罪人の監視役を命じられていた。 ノルンの強い力に干渉できるのは自分しかいないと巫女の老婆が自ら適任者を視て決められたのだ。命じられれば逆らえない。 立派なことだと家族は口を揃えて言ったが、年若い娘であるミィナには罪人の監視役など重荷でしかなかった。 (重荷だったのかしら…あの人も。だから、あんなにも太陽の民と対等に…) あの時、恐怖心から錯乱して騒ぎ立ててしまったことは反射的なものだった。当然のことだ。自分は何もおかしなことはしていない。 栄光の守り人から最も劣悪な罪人へ変わり果てた若者。その制裁はあまりにも凄惨なもので目を逸らさずにはいられなかった。     
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