光冠を投げ捨てよ

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臆するな。その言葉を心の支えに、アグニはぶるっと武者震いをし生唾を飲み込んでから意を決して扉を押し開いた。 そこには大広間のようなだだっ広い空間が広がっていた。 高い穹窿型の天井には大人の頭ほどもある水晶がいくつも吊り下がり、ぱちっと爆ぜる篝火の火の粉をきらきら反射させた。 広間の最奥には、岩場から流れ落ちる細い滝がさらさらと音を立て泉を作っていた。その泉に繋がるいくつもの水路が床に広がり足元を流れていく。 アグニは水路の中に足を落とさないように気を付けて歩いた。 泉の中には壁にぴったりと背をくっつけるようにして並んだ二つの大きな石像があった。 どちらも獣の頭で形作られたそれは神像なのだと誰に教えられなくともわかった。 「!」 アグニははっと目を開いた。 泉の前に誰かいる。濃紫の外套を頭から被り、泉の前でひれ伏すそれはどうやら神像に祈りを捧げているようだった。 月の民だ。 アグニの胸がどっと音を立て、汗ばんだ掌をぎゅっと握り締めた。 「……」 おずおずと近寄っていくと、月の民は気配に気づいたのかぴくりと身じろいだ。 濃紫の外套の頭巾を脱いで、それは顔を上げた。 「…誰だ?」 ぱしゃんと泉の水が音を立てる。 白に近い青みがかった髪が揺れ、淡い光を孕んだ金色の瞳がふたつ、アグニの姿を写した。     
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