光冠を投げ捨てよ

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守り人が行う神事の儀式は簡単なものだ。 泉の前に立ち、神像に祈りを捧げ、供物となる血を流す。その後は一日絶食をして過ごす。 アグニは教わった通りに神事をこなし、長老の老人から預かった黒曜石のナイフで腕を切り付けた。 ぱたり、ぱたりと泉の中に滴り落ちる赤い雫を見つめてから、泉の中に腕を突っ込んだ。 するとみるみるうちに傷は塞がり、傷のついた腕は元の綺麗なものに戻っていた。 「長老の言った通りだ、ほんとに治った」 独りごちながらアグニは神殿に備え付けられている砂時計に目を向けた。 まだまだ時間は有り余っている。 遊びたい盛りの年頃であるアグニは、段々と時を待つだけの行為が退屈になってきた。 アグニは隣に座る月の民…―――ノルンと名乗った少年に目を向けた。 どうやら退屈なのはノルンも同じなようで、彼は足を泉に突っ込んでぱしゃぱしゃと飛沫を上げさせていた。その姿は至って普通の少年だった。 この少年は、同胞たちの言う様に本当におぞましく恐ろしい生き物なのだろうか。 見つめ過ぎていたのかノルンと目が合う。 月の民の目を見ると心を読み取られる。長老の言葉を思い返したアグニはぱっと顔を逸らした。 「アグニ」     
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