はじまりの鍵

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はじまりの鍵

「新しいお家楽しみだね、とも君」 世話になった若い男の担当営業マンが、プラスチックのキーホールダーがついた鍵を友樹(ともき)の手のひらに託した。 真ん中を柔くくぼませて差し出した息子の手の中に、同じ型の鍵を三つ。 「うん」と頷いて受け取り、胸元に引き寄せ両手でぎゅっと握りしめる。友樹の横顔を見て元晴(もとはる)は思わす笑ってしまった。 だってその瞳が、魔法の世界へつながる扉のこの世界に残された最後の鍵を手に入れた・・・とでもいうようにキラキラしていたから。 担当が元晴に視線を移す。 改まった口調で「これで引き渡し完了となります。志摩さん、晴れてマンションのオーナーとなられること、本当におめでとうございます!」と述べた。 「ああ・・・うん、ありがと」 中古マンションの一室を買ったくらいでマンションのオーナーとか大げさ・・・。やめてくれよと恥ずかしくなるが恒例の締め台詞なんだろう。 「つか、マジでいろいろ無理通して貰ったり相談乗って貰ったり、ほんと感謝してます。俺らあんたがいなかったらまだ当分あのぼろアパートにいたと思うから。なあ?とも」 「うん! ありがとうお兄ちゃん」 「いえいえ、そんな。仕事ですから」 「じゃあそろそろ行くか」 元晴は来客テーブルのアイスコーヒーを飲み干した。 自動ドアを出ると18時をまわってもまだまだ明るい七月中旬の空だった。でもまばらに浮かぶ羊雲はかすかにピンクづいている。 子ども達が夏休みに突入する夏本番一歩前。大気はすでに十分すぎるほど蝉の声で満ちていた。 車のロックを解除して後部座席の扉を開け、受け取った『House mow!』の文字とキャラクターの牛が印刷された紙袋を放り込む。ずっしり詰まった中身はこの三か月の間に交わした住宅ローン契約や火災保険などの書類だ。
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