後半 真夏の少年 

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八月に入り一週目の水曜。 朝。 入れたてのコーヒーをすすりながら、今日の予想最高気温を伝える天気予報を眺めていた。 「ともー」 「なに?」 元晴はダイニングテーブルにカップを置き、夏休みで時間を持て余している友樹に提案する。 「今日の予定なんだけどさー。午前中カラオケ行って歌いつつそこで昼飯食ったあとゲーセン行って、夕方になったらドライブがてら新しくできたサービスエリアで観覧車乗って飯食って帰ってくるコースと、もういっこ、今から公園行っていろんなボールと戯れるコースどっちがいい?」 前者の方が費用はかかるけど、その分体力の消費が少ない。カラオケゲーセンドライブコースを選んでくれたらいいなーと思いながら言ったのだが…… 友樹は一秒たりとも迷いを見せず「ボールがいい!」と即答した。 テレビ画面の中の日本列島。 昼の予想最高気温38度。 紫外線は「かなり強い」を表す濃いオレンジ色の太陽マーク。 うわぁ……と見つめながら、やっぱり公園って言うよなあ……と思っていた。 七月は雨が多くてほとんどグラウンドに行けなかったから。 友樹用と自分用のグローブを二つ。野球ボールひとつ。それからサッカーボールとバスケットボールを持って十時頃家を出た。 『柿の実池緑地公園』は、東西南北の入り口にそれぞれ警備員が駐在し、「夜六時以降の出入り禁止」としっかり不審者やホームレス対策がされていた。 マンションを出て十分。ひたすらまっすぐ進むと突き当たる公園北口から入った。 生い茂る背の高い木々が直射日光を防いでくれて、道がアスファルトから土に変わったせいか涼しく感じる。 ボート乗り場のある大きな池。木製ターザンロープのあるアスレチックエリアを通り過ぎると緑のフェンスを張りめぐらせた広々としたグラウンドがあった。 道を挟むようにして左右に二つも。 夏休みとはいえ平日の昼間。 まるまる使われていない方のグラウンドに入り一時間ほどキャッチボールをした。 ヘロヘロだけど一応綺麗な弧を描いて飛んでくる友樹の球をキャッチする。 友樹のグローブにむけ、普通にオーバースローで投げ返したり、時折アンダースローでフライっぽいのや、地面にバウンドさせゴロっぽいのを織り混ぜて返す。 途中からグローブと野球ボールをサッカーボール変え、対面でお互いの足元にパスを出しあった。 十一時半頃、ランチタイムで混雑する前のコンビニにむかいパックの納豆巻きやカップラーメン、冷製スープなどを買ってイートスペースで食べる。 袋にゴミを詰めながら微かな頭痛を覚えた。 照りつける太陽は三十路一歩手前のからだに容赦ない。紫外線が細胞を死滅させるスピードに回復が追い付かない。 ぐったりな元晴の横で友樹は元気だ。 前は近所にあんな規模の公園はなかったから嬉しいんだろう。 早く公園に戻りたそうにそわそわしている。 ダメもとで「公園戻るのやめてスーパー銭湯行かない?」と聞こうとしたとき。 「ね! バスケットゴールひとつしかなかったから早く戻ろう! 前お父さんがやってたシュート教えてほしい!」 友樹が元晴のシャツの裾をひっぱって催促した。 あー……。 心の中でーー頼む誰か使っててくれー、と祈りながら「おっしゃ行くかあ」と立ち上がる。 一番でかいアクエリアスとレッドブルを買って公園に戻った。 「やった誰もいない!」 嬉しそうにグラウンドのすぐ隣、無人のバスケットゴールに走っていく。
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