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「大智ーーーー!! 途中で消えたと思ったら、お前なにやってんだよっ! もう行くぞ!」
対岸のフェンスの外側に四、五人の子どもがおり、そのうちの一人が声を張りあげている。
河村の息子。
河村大智が公園の時計台に顔を向けた。
つまさきで掬い上げたサッカーボールを持ち友樹に駆け寄る。ボールを渡しながらなにかを話していた。
「大智ーー、てかそのちび誰ぇーー?」
「っるせーな。今からこいつ家に送ったあと合流すっから先行ってろ!!」
恫喝じみた声を返す大智の隣、きょろきょろ辺りを見回している友樹と目があう。
友樹が大智のTシャツの裾を引き、こっちを指差す。
元晴はベンチから腰をあげ急いでグラウンドの中に入った。
元晴の存在に気づいた大智がほっとしたように肩を落とす。
ありがとう……と、礼を言うべきだろうか。
友樹と遊んでくれてありがとう。そう感謝の気持ちを伝えた方がいいのか……迷った。
でも、友樹は「遊んで貰った」わけじゃない。
二人は子ども同士っていう対等な関係で遊んでた。元晴にはそう見えた。
ベッドやダイニングテーブルを自分のかわりに組み立てて貰って感謝することとはきっと違う。
友樹と元晴に背を向け、大智が仲間の元へと戻っていく。
「あ」
途中、忘れ物を思い出したように声を洩らし、足を止めた。
からだを前に向けたまま、首から上だけ振り返る。
友樹を見やり、いたずらっぽくはにかんだ横顔は鋭く磨いたナイフのように綺麗だった。
「またな」
一言告げ、仲間の元に走って行く。
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