エレベーター待ち

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定員九名の、狭いエレベーターの奥に進む。 操作盤の手前に立ち、『8』のボタンを押した河村の背中を眺めながらーーきっと俺は浮かれてるんだ……そう思った。 エレベーターがほんのちいさくバウンドしたのち、緩慢な上昇を開始する。 待っていたかのように河村はスーツの上着を脱いだ。 それを脇に挟み、片腕ずつ袖口のボタンを外した。 次、長い指がベルトのバックルにかけられる。 カチャカチャカチャ……金属同士が擦れあう、なんとなく生々しい音がエレベーター内に響いた。 「え!…なに、ストリップはじめた?」 思わずひきつった声で問う。 はっと息をのんだ河村が「あ、ごめん。つい」と眉尻を垂らした。 「一階から上あがる途中で人が乗ってくることほぼないからさ。自分一人か男だけのときは外せるもん外しちゃう癖がついてて…」 「はあ……」 「いつもこの昇ってく勢い借りて、一気に掃除めし作り洗濯まで終わらせてんだ。一秒でも短縮してゆっくり風呂入りたいじゃん。だからつい気持ちが前のめりになるっつーか…。大丈夫、さすがに下は脱がないから」 「そりゃそうだろ。…て。今仕事終わって帰ってきて、これから掃除してめし作って洗濯やんの?! もう十時だけど?」 「やるよ」 あっさりと。 しごく当然のことのように言われ、元晴は「平日毎日?」と疑問を重ねる。 河村が「うん」と頷く。 「まあ…残業で零時回ったとか、よっぽど体調悪いとか理由がないかぎりは。壁厚いからかな、窓閉めたら音漏れないし」 「…へー…てかあれだろ。掃除と洗濯ってルンバと自動洗濯乾燥機のスタートボタンぴッて押すだけだろ?」 河村が「うちそんな便利なもんねーし」と笑う。 「まじで?!」
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