鐘楼

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***  終結部(コーダ)の優しい音色を遠くに聴きながら、僕はふと立ち上がった。リモコンを操作してテレビのスイッチを切る。  画面のなかの椎葉が、夢のように消えた。  もう何度も、飽くほど繰り返し観てきた、3年前の東京公演のDVD。久しぶりに観ても、椎葉の音を耳にした瞬間、否応なく当時の会場へと引き込まれてしまう。  椎葉という人間は、やはり選ばれた人間なのだ。  当時は理解できなかった、作品100に込めた椎葉のメッセージ。今なら、解るような気がする。あの壮絶な“塔”を聴いた今なら。  朽ち果てた寺院から、光を求めて延び上がる新緑。  その、小さくも強靭な生命力を持つ若葉のように、僕も這い上がってみせよう。  ──明日、コンクールの開催地であるワルシャワに向けて、僕は発つ。 [おわり]
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