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終結部の優しい音色を遠くに聴きながら、僕はふと立ち上がった。リモコンを操作してテレビのスイッチを切る。
画面のなかの椎葉が、夢のように消えた。
もう何度も、飽くほど繰り返し観てきた、3年前の東京公演のDVD。久しぶりに観ても、椎葉の音を耳にした瞬間、否応なく当時の会場へと引き込まれてしまう。
椎葉という人間は、やはり選ばれた人間なのだ。
当時は理解できなかった、作品100に込めた椎葉のメッセージ。今なら、解るような気がする。あの壮絶な“塔”を聴いた今なら。
朽ち果てた寺院から、光を求めて延び上がる新緑。
その、小さくも強靭な生命力を持つ若葉のように、僕も這い上がってみせよう。
──明日、コンクールの開催地であるワルシャワに向けて、僕は発つ。
[おわり]
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