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鐘楼
両の手のひらを打ち付けるだけで感情を表現できる──“拍手”とは、最も単純で、最も身近な“音”によるコミュニケーションだと思う。
いま僕の周囲に沸き起こっている拍手は、リズムも早く音量も高い。感情が昂っている証拠だ。手のひらを打ち付けるだけだから、内気な者でも憚る事なく想いを伝えているだろう。
およそ2400人を収容する大ホール。煉瓦造りの、外国の教会を思わせる荘厳な建物は、一種異様な熱気に包まれていた。ステージ上に、待ちに待ったその姿を認めると、拍手はうねりを伴い、一層その強さを増した。
もちろん僕も、無意識のうちに拍手に力を込めた。これほどまでにたくさんの熱い想いを向けられて、彼は何を思うだろう。
まばゆいライトに照らされたステージの中央には、広大な宇宙の闇を凝縮して造られたような漆黒のグランドピアノが、圧倒的な存在感をもって鎮座している。その傍らに佇み、自信たっぷりに微笑みさえ浮かべているのは、今宵の主役であり、そして僕の友人の──いや、友人だった男。名を椎葉という。
……友人だった、というのも少し違う気がする。そもそも僕と椎葉は、友人と呼ぶにはおこがましい、僕だけが一方的に“友人”だと思い込んでいただけかもしれない。
少しばかり複雑になった心境の僕の目線の先で、椎葉がゆっくりとピアノに向かった。拍手がピタリと止んだ。
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