闇オークション

15/18

218人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
「……自由」  そう呟きながら、万年筆を握った手から力が抜けていくのが分かる。 「そうだよ。でも君の体は弱ってる。治療だけさせてくれないかな?」  ゆっくりと近づき、ニコリと笑う悠人。俺よりも柔らかい雰囲気のこいつのほうが、今は適任だろう。 「……いらない」  けれど彼女はそう言って、覚束ない足でベッドから立ち上がった。  彼女の手から万年筆がコトンと落ちる。それにホッとして悠人は拾いながら「でもねぇ」と続けるが、彼女はふらりと歩き出した。 「その体じゃ日常生活だって厳しいよ? あ、もしかしてお金? そんなの気にしなくても、竜生が払うからしっかり休んで」 「自由──」  彼女の手が窓を開け放った。  ここはホテルの最上階で、吹き込む風が彼女と俺達のフェロモンを吹き飛ばす。  その強くも新鮮な風が気に入ったのか、彼女はもう一度「自由……」と呟いて、微笑んだ。  そして、ドア枠に足をかけてーー。 「ちょっ!?」 「待てっ、──っ!」
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加