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「……自由」
そう呟きながら、万年筆を握った手から力が抜けていくのが分かる。
「そうだよ。でも君の体は弱ってる。治療だけさせてくれないかな?」
ゆっくりと近づき、ニコリと笑う悠人。俺よりも柔らかい雰囲気のこいつのほうが、今は適任だろう。
「……いらない」
けれど彼女はそう言って、覚束ない足でベッドから立ち上がった。
彼女の手から万年筆がコトンと落ちる。それにホッとして悠人は拾いながら「でもねぇ」と続けるが、彼女はふらりと歩き出した。
「その体じゃ日常生活だって厳しいよ? あ、もしかしてお金? そんなの気にしなくても、竜生が払うからしっかり休んで」
「自由──」
彼女の手が窓を開け放った。
ここはホテルの最上階で、吹き込む風が彼女と俺達のフェロモンを吹き飛ばす。
その強くも新鮮な風が気に入ったのか、彼女はもう一度「自由……」と呟いて、微笑んだ。
そして、ドア枠に足をかけてーー。
「ちょっ!?」
「待てっ、──っ!」
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