ペットを飼う

20/26
前へ
/174ページ
次へ
「あー、もうこんな時間か。俺はちょっと仕事に行ってくる。夕方には帰る」 「……」 「病院に行くんだよ。昨日の覚えてるか? 悠人んとこ。ちゃんと連れてってやるからここで待ってろ」 「……」  そう言うと、彼は自分の部屋のクローゼットからジャケットを取り出し、今度はバスルームに移動するから付いていった。  すると顔を洗って、ドライヤーを取り出してセットを始めた。 「ミイ、ここはマンションの最上階だ。ここから飛び降りれば確実に死ねる」 「……」 「でも考えろ。俺はお前を鎖で繋がないし、GPSも付けない。逃げようと思ったら逃げれる。死ぬくらいなら逃げろ」 「……」 「でも、今日は待ってろ。病院、行く約束しちまったからな。それじゃ行ってくる」  そして彼は部屋から出ていった。  いなくなった瞬間、音が無くなった。歩けばあたしの足音だけが聞こえる。 「あたしの、部屋」  ベッドしか無いのは今までと同じだけど、今までとは全然違う。清潔なシーツに明るいお部屋。  触れると柔らかくて、いい匂いがした。 「神坂、竜生、さん……」  いい人、なのかな? でもそんないい人がなんであのオークションであたしを買ったりするんだろう? 『死ぬくらいなら逃げろ』  逃げても、追いかけないの? 追いかけて捕まえて、ひどいことしないの?  あたしは、どうすれば良いんだろう?
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加