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ディラーの人が言ってた。
『番は、相手のフェロモンを嗅ぐことによって分かる。分かるってのは本能でだ。理屈じゃなく、こいつだって思ったら番だってさ』
本能でって意味が分からない。でも、あたしも彼も相手がアルファとこオメガって認識しか出来なかったってことは、『番』ではないんだろう。
そして、それを空気で分かったからディラーの彼も『返品不可』と念押ししたんだ。
これも3回目となれば、馬鹿なあたしだってわかる。
あたしは、また売られる……。
カツン……。
ソファから立ち上がり、彼の靴が鳴った。
「お前、名前は?」
「……」
150にも満たないあたしは、彼を見上げるだけで頭がぐらりと揺れそうになる。
不機嫌な顔。それはそうだろう。あたしなんて無駄なものに大金を払ったんだ。
「名前は、と聞いてる」
「……」
あたしの名前、あたしの……。
「オメガ……」
「それは性別だろう。名前、無いのか?」
ずっと、「オメガ」と呼ばれてた。この世界に来て、ずっと……。
「意味が分からん。名前くらいさっさと言え」
「……」
名前なんて、どうでもいい。彼もあたしが番じゃないと理解してる。
これ以上は無駄だから、さっさとあたしを捨てるなり売ればいいのに。
「おい! 聞いてるのか!?」
「──っ」
胸元を掴まれて、頭がグランと揺れて……。
彼も、他のアルファ同様、あたしを嬲るんだろうか……?
死にたい。
お願いだから、だれか、あたしを殺して──。
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