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「お疲れさまでした、神坂副社長」
秘書の有馬は36歳になる。不要なことには口を挟まない、些末なことは自分の裁量で解決する、なかなかできた男だ。なんて、年下の俺に評価されてもうれしくないだろうし、内心俺の下につくなんて面白くはないだろう。
「いや、君の下準備のおかげでスムーズに進んだ、ありがとう。それで今日の資料にコメントを付けておいたから整理しておいてくれ」
「……はい」と何か言いたそうだったが短い返事のみで部屋を出ていく。
時計を見れば8時……。
「しまった!」
忘れてたんじゃない、なんて言い訳しても仕方ない。
「悪い! 有馬、今日は帰るが──」
「急ぎのものは全てサイン頂いております。お疲れ様でした」
さっきの間はそれだったか。それなら言ってくれればいいものを、なんて完全に八つ当たりだ。
だから「すまん」とだけ伝えて俺は会社を飛び出した。
……まさか、本当に死んだりしてないよな?
少しばかり心配してしまう。
ただ飛び降りれば、今頃警察から連絡があるだろうし、オール電化のうちでガス中毒も考えられない。あるとすれば、手首を切って──。
うたには包丁はないが、探せばカッターなりハサミくらいは出てくるだろう。
死のうと思えば、いくらでも死ねるわけで……。
「悠人か? 時間開けといてくれ」
とりあえず、医師である悠人を確保することには成功した。
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