僕、この世界をもっと知りたいです!

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「シロウはもう、シリウスには会えなくてもいいんだ?」 ビットさんが少し意地悪な質問だ。先程からの一連の流れで、シロさんがシリウスさんより僕を選んだ事はビットさんにも分かったのだろう、それでもビットさんはシロさんにそんな質問を投げかける。 「それは……やはり何処で何をしているのかは気にかかるが、あまり心配はしていない。シリウスは私よりも余程逞しく生きていける事を私は知っているからな。シリウスが戻る事でスバルが消えると言うのなら、私は申し訳ないがシリウスには戻って来ずに自力で生きていって欲しいと思う。そしてシリウスにはそれが出来るだけの器量がある、問題ない」 「はは、確かにね。シリウスだったらそれこそ異世界でも逞しく生きていきそうな気がするよ」 僕はそんな2人の会話を聞いていて、ふと考える。 「もしかして、シリウスさんって僕の世界の僕の身体に入り込んじゃったって可能性もあるのかな?」 「ん? どういう事だ?」 「どういう要因でそうなったかまでは分からないし、あくまでも仮定の話だけど、もしかして僕とシリウスさんの中身が入れ替わってる可能性って……」 最近話題の映画でもあったよね、僕たち入れ替わってる!? って、あれ。 「だとしたら、シリウスは現在スバルの世界にいるかもしれない、とそういう事か……?」 「だって、シリウスさんの私物の中に僕の世界の物があったんだよ? それはシリウスさんが僕の世界と何かしら関係があるって証拠にならない?」 「ふむ、確かにそれも無くはないな」 シリウスさんのお守り袋、入っていたのは写真とSDカード、このSDカードの中には何が入っているんだろう? この写真の元データも入っているのかな? でも、どう頑張ったってその中身は見れやしない…… 「この世界にパソコンか、せめてスマホでもあったらなぁ……」 「ぱそこん?」 「すま、ほ……?」 シロさんとビットさんが、またしてもきょとん顔だ。 「えっと……僕の世界の通信機器。これの中身が見れたらな、って思ったんだよ」 僕がSDカードを摘まんで見せると、シロさんが、その小さなカードをまじまじと見つめて首を傾げた。 「これは、見た事があるな……」 「え!? 何処で!?」 「父親の私室だ。私はこれを魔道具だと思っていたのだが、違ったのか?」 「こんな魔道具、僕は見た事ないよ!」 さすがに魔道具屋さんのビットさんは即座に否定する。そりゃそうだよね、どう見たってこれSDカードだし、この世界の物では絶対ありえない。 「でもなんで、シロさんのお父さんの私室にそんな物が?」 「父はこれで何かの情報を受け渡ししているようだったが?」 「え? ちょっと待って、じゃあこの世界の何処かにこれを再生できる機材があるってこと!?」 「それも父の私室に有ったように思うが……これらは本当に魔道具ではないのか?」 「だから、僕は見た事ないって言ってるよ!」 プロの魔道具屋としてのプライドが許さないのか、ビットさんはそれが魔道具ではないと断言する。 「そうか、魔道具ではなかったのか……父は魔術師でもないのにおかしい、とは思っていたんだが……」 「ねぇ! 僕、そこ行きたい! シロさんのお父さんの私室って何処!? この街に家があるの!?」 「いや、家は一族の集落の方にある。あそこは父の家だからな、今は誰も使っていないはずだ」 「近い? そこって近い!?」 「まぁ、歩いて3日もかからないはずだ」 3日……でも近いね! 世界の反対側に行くよりは全然近いよ! うん! 「行こう、シロさん! 僕はこの中に何が入っているのか知りたいんだ!」 「ふむ……それはいいが、一族の奴等がうるさいかもしれないぞ?」 「? なんで? 何が?」 「晴れて私達は結ばれた訳だが、一族の皆が騒がない訳がない。良くも悪くも、な」 「良くも悪くも……?」 「言っただろう? 私は仲間内では出来損ないの半端者で、あまり仲間にいい顔はされていなかった、加えてシリウスは仲間内にも平気で喧嘩を売っていく気の強さだ、居づらくなって集落を出てきた私達にとって、帰るのに勇気のいる場所には違いない。勿論私達を気にかけてくれている者達もいるにはいるが、手離しで歓迎はされないだろうな……」 あぁ、そうなの? よく分からないけど村八分的な感じなの? それはちょっと嫌だなぁ。 「でも、ちょっと家に寄ってこれの中身だけ見て帰ってくれば……」 「挨拶を怠って、それがバレたら、二度と集落に戻れなくなるぞ」 なんか厳しいなぁ。限界集落か何かなの? 田舎の風習とか、僕、そういうの理解出来ないよ! 「挨拶だけすれば大丈夫?」 「まぁ、恐らくは」 「だったら仕方ない、手土産持ってご挨拶だね。正直面倒くさいけど、背に腹は変えられない」 「……スバルはそんなに元の世界に帰りたいのか……? やはり私なんかの番では……」 シロさんがまたしても、しょんぼり耳を垂れている。 「だから違うって言ってるのに……シロさんって意外と気が弱いって言うか、本当に自分に自信がないんだね。僕もそこまで自分に対して自信満々なタイプじゃないけど、シロさんはちょっと自分を卑下しすぎ」 「む……すまん」 「謝らないの、シロさんは見た目格好いいんだから、もっと堂々としてればいいんだよ。僕はシロさんが好きだってちゃんと言ったよ」 大きなもふもふの手をにぎにぎしながら、僕はシロさんを慰める。仲間内で頼りないって馬鹿にされていたって言っていたシロさんの言葉も納得だよ。これも優しさの裏返しなんだろうけど、気の強いシリウスさんがシロさんを気に入らなかったのも何となく分かってしまう。 これは僕がしっかり守ってやらなきゃ駄目かも、なんて、保護欲をそそられた。
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