僕とシロさんの帰郷

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僕とシロさんの帰郷

僕達は旅の準備を整えて、翌日には街を出た。ちなみに、僕達の暮らしていたあの街の名前は『ノースラッド』って言うんだって。それで、僕達の暮らすこの大陸の名前は『ガレリア大陸』って名前。シロさんのお父さんが所属している『ガレリア調査団』はこの大陸の名前から付けられたんだって。要するにこの大陸を代表する調査団って事みたいで、僕達の世界で言うところの国家公務員みたいな扱いらしいよ。凄いね! 世界は幾つかの大陸に分かれていて、その中央に位置している大陸が、皆が目指している中央と呼ばれている場所になる、名前はそのまま中央都市(セントラルシティー)って呼ばれているらしいよ。少しずつだけど、段々この世界の地理が分かってきた気がするよ。まだ知らない事の方が多いけどね! そして、僕達が今目指しているのはシロさんとシリウスさんの故郷、狼の獣人達が暮らす集落。ノースラッドより世界の果てが近いから魔物の数も増えるってシロさんが言っていたんだけど、今現在、僕達2人は魔物に追い掛け回されて大変な事になっているよ! 「シロさ~ん! また、きたぁぁ!!」 街の周辺にも小さな魔物はちょこちょこ出てくるものだから、僕がものは試しと、魔法で蹴散らしてみたら、これが思いの外よく効いて、『これ、もしかしたら魔物退治って楽勝なんじゃね?』なんて最初のうちは思っていたんだけど、段々街から離れるにつれて魔物の数は増えるし、地味に強くなるし、ついでに僕の魔力はあっという間に枯渇するしで、現在僕はシロさんに抱えられての旅路となっている。 本当に申し訳ない。無駄に魔物狩ったりして調子に乗りすぎました、反省してます。 だって、あの魔術師さんの所で遭遇した魔物と違って、街周辺にいる魔物って本当に小さくて、いかにも小動物って感じだったものだから、いける! って思ったんだよ…… 最初のうちこそシロさんも一緒になって闘ってくれていて、その姿がこれまた予想外に格好良くて、シロさん、格好いい~! なんて見惚れていたんだけど、僕が動けなくなった事で、シロさんの両手も塞がり、今はひたすら逃げの一手だ。足手纏いでごめんなさい、反省してます(2回目) ちなみにシロさんは『格闘家』だから、自分の体でがちんこ勝負、両手が塞がると戦えないんだよ。ホントごめん。 「はぁ……何とか振り切ったか……」 シロさんが肩で息をしていて、本当に申し訳ない。 「ごめんね、シロさん。僕、そろそろ自分の足で歩けると思うから、おろしてくれていいよ」 「いや、しかしだな……」 「大丈夫だから、ホント、足手纏いでごめんね」 「それで言うなら、これは私のせいでもあるからな、申し訳ない」 「シロさんの? 何が?」 「言っただろう? 私の毛色が目立つんだ、魔物はこの毛色に寄って来る」 あ……そういえばそんな事言ってたっけ。確かに白いの目立つのかな? でもそこまで? 服を着こんで旅装束のマントまで羽織っているシロさんの体毛なんて、顔と手足以外ほとんど見えやしないのに、それって被害妄想じゃない? なんて言ったら、シロさんまた色々と傷付きそうだから黙ってよ。 「じゃあ、お互い様って事で休憩しよ。シロさん疲れただろ?」 「スバルと一緒ならどうという事もないさ」 そんな事を言っていても、疲れているのは分かってる。僕を庇って逃げるから、怪我をしているのも知ってるんだよ。ヒーラーでもあるシロさんは自分で傷も治せるんだけど、せっかく綺麗なシロさんの毛並みが乱れているのも本当に本当に申し訳なくて、僕はその腕をなでなでと撫でやった。 「あとどのくらいで着きそう?」 「もう然程遠くもないさ、ここは既に集落の狩場だからな」 「狩場? 魔物の?」 「あぁ、集落のこちら側は訓練用の子供達の狩場。集落の向こう側が大人達の狩場だ」 「何が違うの?」 「魔物の種類が違う、集落の向こう側は『世界の果て』だからな、より強い魔物が出る。こちら側は大人達が目こぼしした小物がほとんどだ」 「もしかして、さっきまでのって小物? なの?」 「逃げ切れる程度の魔物なら、小物と言っていいだろうな」 それは強い魔物だったら逃げ切れないし、倒すしかないって事? 結構ヘビーな世界だな、生傷絶えなさそう。 「シロさんとシリウスさんはこんな所で暮らしてたんだ、怖くないの?」 「生まれた時からそうだからな、怖いと思った事はない」 そんなもんなんだ。僕は最初がノースラッドの街だから、こんな魔物だらけの場所、住みたいとも思わないけど。 「シロさんは、ここで生まれたの?」 「あぁ、そうだ。父が母を中央から連れ帰り、私はこの集落で生まれ落ちた。中央育ちの母はずいぶんこの地を恐れていたが、その頃は父も集落で暮らしていて全力で母を守っていたからな。そんな母も、もう亡くなって久しいのだが」 「シロさんのお父さんはお母さんが亡くなったから出て行ったの?」 「まぁ、恐らくそうなのだろうな。父ならば次の番相手を中央に探しにも行けただろうが、番相手は母だけでいいと言って、ガレリア調査団の一員になったんだ。何かしていなければ心の穴が埋められなかったのだろう。それくらい父は母を愛していた」 ビットさんは『人』の事を『生む道具』みたいに言ったけれど、シロさんはそんな言葉は決して口にしなかった。きっとシロさんは両親に愛されて育ったんだろうね。寿命の長さの違う種族の交わり、それがこの世界の必然なのだろうけど、一緒の時間を過せない、刹那の時間の交わりでも、そこにちゃんと愛は育つんだ。 「シロさんも、それくらい僕を愛してくれる?」 「それは勿論そのつもりだ」 僕は思わずにへらと笑ってしまう。僕は自分が愛情に縁の薄い人間だと思っていた、そんな風に愛される事など一生ないのだと諦めていた。家族の愛をほとんど知らない僕にはシロさんのその言葉が嬉しくて仕方がないよ。 「僕もシロさんが大好きだよ」 思わずもふっとその胸に抱き付いたら、少し驚いたようだったけれど、やはりいつものようにその大きな手でシロさんは優しく僕の髪を撫でてくれた。
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