僕、どうやら異世界に来ちゃったみたいです

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身繕いをした獣人シロウさんは器用に二本足で歩いている、僕も寝床から抜け出して辺りを見回すのだけど、見れば見るほど現実っぽくて夢のような曖昧さがない。僕、本当にどうしちゃったんだろう…… 「それではもう一度聞こう、お前の名前は?」 「大崎昴」 「歳は?」 「17」 「生まれは?」 「日本のど真ん中」 「ニッポン?」 「分からない? 世界地図とかあったら載ってるかな?」 「だったら後ろだ」と、言ったシロウさんの言葉に振り返ると、壁には大きな地図が貼られていた。僕は身を乗り出してその地図を隅から隅まで眺め回すのだが、どうやらどこにも日本は存在していないらしい。そもそも世界地図自体が僕の知ってる世界地図とは全然形が違っている。どうやらここは本当に僕の住んでいた世界とは違う世界みたいだ。 「今、私達がいるのがここ」 背後からぬっと手を伸ばしてきたシロウさんの指がその大きな地図の端を指差す。 「ずいぶん端っこだね、普通世界地図って住んでる地域が真ん中に来るように作られるものじゃなかったっけ?」 「ここを真ん中に作ったら、世界が地図に収まらないだろう?」 「え? だって地球は丸いんだし、こっちがこっちにくればいいだけで……」 僕が地図を指差しシロウさんを見上げると、彼はまた怪訝な表情を見せ「この地図の先がなんでこっちに繋がるんだ?」とそう言った。 「え? 違うの? こっからこうで、ぐるっと一周」 「する訳ないだろう、この地図の先は無の世界だ、何もない」 僕は驚いてもう一度地図を見る。そこそこ広い世界だと思う、けれど『無』ってなんだ? 「行った事がないから分からないとかじゃなくて……?」 「そもそもその先に行けないんだよ、進んでいるうちに反転して戻ってくる」 ……意味が分からない、どういう仕組みだよ、それ…… 「じゃあこっちからこっちまで行くのには、こうやってこの地図横断して行くしかないの?」 僕は、今自分達がいると言われた場所から対角線を指差してシロウさんに問うと「転移魔法で行けばいい」とさらりと言われた。 「てんいまほう……」 「分からないか?」 「ええと、こっからこっちへ移動する魔法?」 「そう、それだ。距離が遠いから高くつくけどな」 「有料なんだ……」 交通手段は魔法? って、え? 待って、この世界って魔法使えるんだ? もしかして僕も魔法使えたりするのかな? 僕は思わず自分の掌を見詰める。 「仲間に魔導師がいれば無料で行けるが、お前魔術は嫌いだろ?」 「え……? そうなの?」 「昔、魔術のセンスが壊滅的にない! って、断言されてからの魔術嫌いだろうが」 「僕、センスないんだ」 ファンタジーな世界で魔法を使えるって現代社会で生きていて、ある意味一種の憧れでもあるのに、使えないんだ…… 「潜在魔力は高そうなんだが、使いこなせないって、じじいが言っていたぞ」 「潜在魔力……じじいって、誰?」 「お前が師事した魔術師のじいさんで魔法を教えている」 「魔法使いの先生?」 「まぁ、そんなもんだ」 言ってシロウさんはくるりと踵を返し、椅子にかける。僕もそれに続こうと思ったのだけど、よくよく見たらこの家何もかも造りが大きい。シロウさんの体格が僕より一回り大きいので、彼に合わせた家なのだというのは一目瞭然で、僕はその大きな椅子に子供のようによじ登る羽目になった。 「自分用の椅子にかければいいのに」 「あるんだ? だったら最初から言ってよ……」 僕は椅子から飛び降りて、周りを見渡す。部屋の隅にその椅子はちょこんと置かれていて、僕はその椅子を机まで運んで改めて腰掛けたのだが、椅子が低いので机の上は半分ほどしか見えなくて、あぁ、これ子供の視線だ、と何となく昔を思い出してしまった。 幼い自分、隣にはもうひとつ同じようなベビーチェア。両親が2人の顔を覗き込む、けれど僕の記憶はその片方、父親の顔をはっきりとは思い出せない。 「どうした?」 「何だか小さな子供になった気分でさ……」 「だろうな、だからシリウスはこの家を嫌っていた」 「そうなんだ?」 「だが仕方がないだろう? 私に合わせた家なのだから。私自身が大きくないからこれでも獣人の家にしては小さな方だ」 「え? これで? ってか、シロウさんが大きくないって嘘だろ?」 僕が驚くと、彼はやはりそれに驚いたようで「私は獣人の中では出来損ないのチビだぞ?」とそう言った。 「え~? じゃあ普通の獣人ってどのくらいの大きさなんだ?」 「私の2倍くらいかな」 って事は何? 僕の3倍? もう化け物じゃん! 無理無理無理、そんな世界でどうやって暮せって言うんだよ! ってか、外出るの怖い! どんな世界が広がってるのか想像出来ない!! 「まぁ、狼の獣人の中ではって話しだがな。兎やリスの獣人はお前とそう大差ない」 「え? そうなんだ? それはちょっと安心したよ」 「お前は本当にこの世界の事を何も知らないんだな……」 「だから最初からそう言ってるじゃん」 「そんな状態でお前を外に出すのは不安だな……」 「僕もそんな化け物みたいな人達に囲まれたりしたらと思うと、怖いよ」 僕の言葉に彼は驚いたような表情を見せる。僕、何か変な事言った? だって怖いよね?僕の3倍のサイズだよ? そんな人達……いや、獣達? が跋扈してる世界なんて怖くておちおち散歩も出来ない!! 「シリウスの口からそんな言葉を聞く日が来るとは……」 「だからシリウスさんじゃないって言ってるのに! それに何? シリウスさんて怖いもの知らず? 僕、そんなに驚かれる事言ったかな?」 「シリウスは勝気で、負けず嫌い。半獣人だからと言って獣人に負けていられるかと、剣の腕を磨いて剣士になった」 マ・ジ・で!? 格好いいじゃん、剣士! 凄いなシリウス! じゃあ、僕も剣使えたりするのかな? 「そこにお前の剣も置いてある」 言われて、そちらを見るとそこには立派な大剣。 「これ、僕の?」 シロウさんが頷くので、その剣に寄っていき恐る恐る持ち上げるのだけど、重い。これ絶対持ち上がらないって、シリウスさんどうやってこの大剣使ってたんだ? 明らかに身体のサイズに合ってないだろう??? 「どうした?」 「重すぎ、持ち運べない」 「シリウスはいつも背負っていた。その剣はお前専用で誂えたモノで他の人間には使えない」 これを? 本気で? 運ぶだけでも大変なのにこれ振り回していたって事? っていうか、僕のスペックってシリウスさんと同じじゃないんだ? 姿形は同じだって言われたから、もしかしてシリウスさんが出来る事は自分でも出来るのかな? って何となく思っていたんだけど、僕にこの大剣は絶対無理だよ、扱えない! 「僕、この世界で生きていける気がしないんだけど……」
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