シロさんの試練

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堅牢な町の門が開く。自分はこの門の向こう側に行った事がほとんどない。何故なら私はこの町に暮らしていた頃、狩に参加できるほどの力がなかったからだ。けれど今は違う、シリウスと一緒に町を出て、大きな街で幾つもの魔物討伐の依頼を受けてきた。 街近郊に出る魔物など対して強くもない小物ばかりだが、依頼の中にはダンジョン攻略などの仕事もあって、そういった場所の魔物はその辺を闊歩している魔物に比べると格段に強かった。 少しずつではあるがそんな依頼もこなす事で、ある程度の経験と実績を重ねた今の自分になら、きっと南の砦にだって行けるはずだ。いいや、無理だと言われても行かねばならない、私はスバルを嫁に貰うと決めたのだ。理不尽な理由で引き離されたくらいで、スバルを諦めるようでは、夫としての資質を疑われてしまう。だから私は、何としてでもこの手でスバルを取り戻すのだ! 門を出て、数歩で後ろを振り向き、私はにわかに溜息を零す。 「お前達、なんで付いてくる?」 そこにいたのは、この町での顔馴染みの面々だ。ロウヤを筆頭に何故か数人がやる気満々で私の後を付いてくる。全く意味が分からない。 回復薬などの準備をしてくると行って別れたロウヤは、戻ってくると何故か数人の仲間を伴って戻ってきたのだ。私を労いにでも来たのかと思いきや、何故か皆、最初から南の砦に行く気満々で、とても解せない。 「だから一人じゃ危ないって言っているだろ?」 「大丈夫だと、私は言ったぞ」 ロウヤに悪気は全くないのだろうが、どうやら彼は私一人では危険だからと、仲間を集めてきてくれたらしい。けれど正直「ありがた迷惑だ」と言わざるを得ない。 付いて来たのはこの町で『若衆』と呼ばれている年齢3桁前半のまだ若造と呼ばれる面々だ。その中で嫁を娶っている者はまだいない。 そもそも中央に番相手を求めにいける条件が厳し過ぎて嫁をもらえる者はとても少ないのだ、そんな中でたまたま親が連れて来た半獣人を嫁に娶ろうとしている私が彼等は気にいらないのだと思う。その内の2人はシリウスに散々ちょっかいをかけていた者達で、あわよくば奪い取ろうという魂胆が透けて見えるようだ。 「そんな事を言うな、シロウ。お前だって俺達の仲間じゃないか」 「グレイ、言っておくが、迎えに行くのはシリウスではなくスバルだぞ」 グレイ、その名の通り銀灰色の毛並みの獣人、この中では最年長。間もなく若衆を抜ける年齢なのだが、グレイにもまだ番相手はいないらしい。既に中央に行く資格は習得済みのはずなのだが、まだ嫁を娶る気はないのだろうか? というか、グレイはシリウスを狙っていた可能性がとても高い。何かにつけて、シリウスに手を出しては、シリウスをきーきーと怒らせていたのがこのグレイで、正直不安で仕方がない。 「ロウヤになんとなく話は聞いたが、姿はシリウスだっただろう? さっきちらりと見かけたぞ?」 「たぶん外見は間違いなくシリウスだ。けれど、中身が別人なんだ。どうやらこの現象は魔物の仕業で間違いないらしい、だが、スバルは魔物なんかじゃない!」 「その、スバルとやらは魔物なのか?」 「だから違うと言っているだろう! 話を聞け、バジル!」 次に口を挟んできたのはグレイより少し年下のバジル。グレイの腰ぎんちゃくで、グレイと共にシリウスにちょっかいをかけては怒られていた内の一人だ。バジルはあまり物事を深く考えない。それこそグレイの言う事に軽い気持ちで従って、あまり自分がないようにも見えるのだが、狩りの腕はピカイチで、不思議と憎めない人柄をしている。 「だが、コテツ様がそう仰ったのだろう? コテツ様の仰ることで、間違いなどあるとはとても思えない」 最後に、固い口調でそう言ったのは、ロウヤのお目付け役のような役を務めているウル。私とロウヤより100歳ほど年上なのだが、族長様に仕えているせいか、ロウヤの兄弟分である私に対しても丁寧だ。ウルは私を差別的な目で見たりはしないが、何を考えているのか分からない所もあって、正直少し苦手だったりもする。 「なんでウルまで付いて来た? どうせならロウヤ達を止めてくれたら良かったのに……」 「ロウヤ様が止めて止まるとお思いですか?」 「それを止めるのがウルの仕事だろう?」 「まぁまぁ、そんな事言わないで一緒に行こうぜ、さぁ、出発進行!!」 「ロウヤ、お前が仕切るな……」 全くもって大きな溜息しか出てこない。こいつ等遊びにでも行くつもりか? 「なぁんて、言ってるそばから来たぜ、来たぜ」 楽しそうなバジルの声。前を向けば黒い塊がうごうごと、蠢きながらこちらへとやって来る。 「結構な大物が来たな。これはやりがいがありそうだ」 「グレイ、楽しんでんな!」 シリウスの物にも似た大剣を抜いて、グレイが笑う。避けられる戦闘なら避けて向かおうと思っていたのに、彼等は狩る気満々で、そんな私の心の声はまるで彼等には届かない。 魔物は大きければ大きいほど動きが鈍い、避けようと思えば避けられたのに、彼等にはそんな気はさらさらないようだ。本当に頭が痛い。 「おいら、一番ノリ~!」 軽い言葉と共にバジルが、駆け出し軽い身のこなしで魔物の瞳に向けて数本のナイフを投げつける。その内の一本が見事命中したのだろう、魔物は大きな悲鳴を上げて暴れ始めた。その声は次々と小さな魔物を呼び寄せて、あっという間に辺りは魔物であふれかえり、もう戦闘は避けようがない。こんな出鼻から全力で闘っていたら、南の砦に着く頃にはどうなってしまうのだろうか……と、思わずにはいられないのだが、そんな事を考えている暇はもう残されていなかった。 「くそっ、お前等あとで覚えておけよっ」 そうは言っても、自分が彼等に何かできる訳でもないのだが、恨むだけなら幾らでも出来る。何かの折に地味な呪いをかけてやる、と思わず心に誓ってしまった。
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