僕とシロさんの二度目の夜

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私の腕の中で、今、最愛の妻が潤んだ瞳で私を見上げている。 今まで到底倒す事のできなかった魔物をこの手で倒し、意気揚々と辿り着いた南の砦で私達を出迎えたのはコテツ様だった。 「ずいぶん早い到着だね」 悠々とした態度のコテツ様は意地悪く瞳を細めて私達を見回した。 「コテツ様! スバルを! スバルを返してください!! スバルは魔物なんかではあり得ない、スバルは私の妻なのです」 「そうだね、それはどうやら間違いではなかったようだ」 「分かってもらえたのですね、だったらスバルを……!」 「ふむ、彼が魔物でない事は分かったのだけれど、申し訳ないが、彼には少し厳しい尋問をさせてもらっていてね、今はきっと身動きが取れなくなっているのじゃないかな」 「なっ……コテツ様、スバルに一体何をしたのです! スバルは無事なのですか!!」 「それは、自分の目で確かめるといいよ」 そう言うとコテツ様は身を返して道を開けてくれた。コテツ様の背後には砦を上へと登る階段、好きに行けばいいとばかりのその態度には何かまだ裏があるのではないかと疑ってしまうのだが、そんな事よりも今はスバルの身の安全を確保する事が先決だ。 私がコテツ様の脇を抜け階段に向かうと、当然のようにロウヤ達がついてこようとしたのだが、コテツ様はそんな彼等の行く手を阻む。 「君達は駄目だよ。ご苦労だったね、スバル君の疑いは晴れた、君達にはここにいる用もない、もう町に帰るんだ」 「でも、母さん、シロウとシリウ……スバルだけでは町に戻れない。スバルが怪我をしているなら尚更!」 「私も無体な尋問をしたと理解している、その辺はこちらで手配済みだ。お前達はすみやかに町に戻って……」 コテツ様が何やらロウヤに耳打ちをした。すると驚いたような顔のロウヤはコテツ様の顔をまじまじと見やって「え、でも……」と、戸惑い顔だ。 「ウル、ロウヤを連れて帰って、詳細はラウロから聞いてもらえばいい。グレイとバジルもここまでご苦労だったね」 問答無用のコテツ様に皆、戸惑いを隠せないようなのだが、今はそんな事を気にかけている場合ではない。私は、そこまでの会話を背中に聞きながら階段を駆け上った。螺旋に続く階段、そしてその先には質素な扉。あそこにスバルは囚われている。無体な尋問、魔導師であるコテツ様は魔術を自在に操る、一体どんな尋問を受けたのか分からないが、スバルが身動きも取れずに苦しんでいると思うと胸が痛んだ。 「スバル!!」 私がその扉を蹴破る勢いで開け放つと、そこにはスバルがほにゃんとした笑みで立っていて「あ、シロさん」と、にこりと笑みを零した。 「スバル、大丈夫か! 怪我は!?」 私が掻き抱くようにしてスバルの体に怪我がないかの確認をしいると、何故かスバルはくすぐったそうな表情でくすくすと笑っている。 「ないよぉ、だって僕、何もしてないし」 「だが、コテツ様に無体な尋問を受けていたんだろう!」 「ううん、一緒にお茶飲んで、シロさん待ってた」 「……あ?」 何を言われたのか瞬間意味が理解できずに間抜けな声が出た。 「シロさんはたくさん怪我してる。ごめんね、大変だったよね」 そんな事を言いながらスバルはこの一連の流れがコテツ様とラウロ様に仕組まれた私に対する試練だったのだと教えてくれた。 薄々そういう事もあるかもしれないとは思っていたのだが、本当にそうなのかと思うと脱力感が半端ない。スバルが無事な事にはほっとしたが、悪趣味にも程がある!! しかもスバルは「コテツ様、コテツ様」とコテツ様にずいぶんな懐きようだ、全く腹立たしい事この上ない。 けれど、話しの流れで何故か一緒に風呂に入る事になったのはラッキーだ。とはいえ、煩悩全開の私と違いスバルは邪気もなく私の背中を流そうとするので罪悪感も半端ない。 そんなスバルに「うむ、スバルの好きにすればいいぞ」と、ぐっと自分の欲望を飲み込んだまではよかったのだが、逆にそれはスバルの不安を煽ったようで不安気な瞳で見上げてくる。そんなスバルの瞳がまた居たたまれない。 「何か嫌だった? 駄目な事なら駄目ってちゃんと言って!」 何やら泣いてしまいそうに潤んだ瞳のスバルに「いや、いや、私の頭の中が煩悩で溢れていて、邪な感情が抑えられなかっただけだから、スバルはそのままでいてくれたらいい」などと誤魔化してはみたものの、己の欲は治まる事を知らず、自然前は立ち上がる。仕方がないこれは自然の摂理だ。 けれど、何かを察した様子のスバルに「あの……その辺は、身体洗った後で、ね?」などと可愛く小首を傾げられた日にはもう! その澄んだ瞳で私を見るな! 己のこの醜い欲望が抑えきれなくなる!! 「お前のそれは無意識なのかもしれないが、そんな邪気のない顔で私を煽るのは止めてくれ、今すぐ押し倒したくなる!」 もうどうにも我慢の限界だった私は服を脱ぎ捨て浴場へと向かった。とりあえず心頭滅却だ、水でもかぶればきっと落ち着く……きっと、たぶん。 だが、慌てたように私を追いかけて来たスバルの姿は更に私の煩悩を煽るのだ。上は袖のない白い薄手の下着一枚、そして下は最低限しか隠していない紐同然の下着。なんなのだ、その格好は! 誘っているのか? 違うのか!? 全部脱げとは言わない、だがしかし中途半端に露になったその尻を撫で回したくなる私の心は汚れているだろうか? 否、絶対そんな事はない、そんな尻を露に私の前に立つスバルが悪い! 私に抱きつくようにして私の身体中を泡立てていくスバルのその肌色から目が逸らせない。浴場は湯気が立ち上り、薄い下着はスバルの肌にぴたりと張り付き胸の突起が露になっている、もう我慢は無理だ…… 「スバル……」 「なに?」 「前は自分でやるから、背中側だけにしてくれ……」 「でも……シロさん、疲れてるだろうし、僕やる……よ」 背中から腕へ、そして腹へと進んできていたスバルの視線が私の下肢に注がれた。だから自分でやると言っているのに…… 「そこも……洗う?」 「え……や、スバル!?」 驚いた事にスバルが私の陰茎を掴み、撫でるようにそう言った。まさかそう来るとは思っていなかった私は戸惑いが隠せない。 「煽るなと言うのに!」 私の悲痛な叫びにスバルはやはり邪気のない瞳で小首を傾げ「別にシロさんの好きにしていいんだよ? だって僕はシロさんのお嫁さんなんだから」と言ってのけた。これはお誘いか? 誘っていると受け止めて大丈夫か? 「一方的なのは好きではない」 どうにか理性で出た言葉、だが返ってきたのは「今の僕を見ていても、シロさんはそんな風に思うの?」という、スバルからのありがたいお言葉で……これはもうOKだとみなして大丈夫だな、うん。その上目遣いがあざとすぎて鼻血が出そうだけどな。
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