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凄かった……もう、凄かったとしか言葉が出てこない。コテツ様に言われて覚悟はしていたものの、本当に本気で死ぬかと思った……いや、そればっかりでもなかったけどね、なんかもう普通に気持ち良かったし、途中から自分ももうがんがん腰振っちゃってた気がするし。あれだ、気持ちよすぎて死にそうって感じ。
それにしても二度目でこれってどうなの? 僕の身体おかしくなっちゃったりしてないかな? 最後の方はもう気持ち良すぎて、自分が何を言って何をねだったのかもあんまり覚えていない。
湯船の中での3回目あたりからちょっと記憶曖昧なんだよね……
朝日が昇り始めているのか窓の外がうっすら明るい。たぶんシロさんがこの砦に辿り着いたのは夕方くらいだったと思うんだよ。風呂場で致している間に完全に日は暮れて、出てきた時にはもう暗かったような気がする。そのまま、シロさんの気が済むまでHして、たぶんそのまま疲れて寝ちゃったんだな……なんか、だいぶお腹空いた。
僕の傍らにはシロさんがまだ寝息を立てている。すっかり元通りになったシロさんの毛並みはモフモフだ。ついでに朝日も浴びてキラキラしていて、すごく綺麗。そんなシロさんの毛皮に埋もれて寝ている自分は本当に幸せな人間だなと思う。
今までの人生だって人に語ればそこまで不幸な人生ではなかったと思う。ただ少し家族との縁が薄かっただけ。
母さんだって僕を虐待したりしていた訳じゃない、ただ少し忙しかっただけだ。だけど僕はそれがとても寂しくて、いつでも孤独を抱えていた。だけど、今はもう一人じゃない。僕を愛して守ってくれようとしている大きくて逞しい僕の狼さんは、とてもとても格好いい。
なんでシリウスさんはシロさんをそこまで嫌ったのかな? 僕には本当にそれが分からないよ。この毛皮がそんなに気に食わなかったのかな? こんなにもふもふで気持ちがいいのに、そうだとしたらシリウスさんは贅沢だな、と僕は思う。
上半身を起してシロさんの毛並みを撫でると、身動ぎするように、シロさんが顔を顰めた。
「んっ、スバル……起きたのか……」
「うん、ちょっとお腹空いちゃった」
「あぁ、言われてみればそうだな。ふわぁぁ」
大きなお口の狼さん、その大きなお口で食べられちゃいそうだね。でも、僕はその狼さんが僕を食べる事なんてないって知っている。まぁ、別の意味では食べられている訳だけど。
僕がそんなシロさんの鼻面に「おはよ」と、キスを贈ると、少し驚いたような顔のシロさんはすぐに嬉しそうな表情になって僕の頬を舐めた。
そして、そのまま耳を食んで押し倒されそうになったので「それはダメ~」と押し返す。
「先にご飯。僕、お腹ぺこぺこだもん」
「あぁ、まぁ、確かにな」
言ってるそばからどちらの腹の音なのかぐぅ~と間抜けな音が響く。僕達は顔を見合わせて笑ってしまった。
「ご飯、ご飯、美味しいご飯が食べたいな☆」
僕がそう口にすれば、机の上には美味しそうな料理が並び出す。本当にこの部屋って便利。
「この部屋ってば快適すぎて、困っちゃうね」
「これはスバルがやっている訳ではないのか?」
「うん。僕にはこんな魔法はまだ使えないよ。コテツ様がそうやって整えてくれているから、こんな便利な部屋になっているんじゃないかな? 僕もコテツ様に習えばこんな魔術も使えるようになるかな?」
「そこに無い物を創造するのは大変だと聞いている、そう一朝一夕に習得は出来ないだろうがな」
「でも、出来たら便利だよね。だからさ、僕、コテツ様に魔術を習おうと思うんだけど、ダメ?」
僕が小首を傾げてそう問うとシロさんは少しだけ渋い顔。
「駄目ではないが、あまり何でもかんでもスバルが1人で出来るようになってしまうと、私の存在意義が……」
「魔法が使えるからって何でも出来る訳じゃないだろう? それに、存在意義って何? 僕にとってシロさんは僕の大事な旦那さまなのは変わらないよ?」
「ふふ、果たしてこの世界に馴染みきった後でもそう言ってもらえるかだな……」
もう! 相変わらずシロさんはいつでもどこか自信なさげで、ダメだよ、そういうの! もうこれ、きっとシロさんの性格なんだね。
「僕の旦那さんのシロさんは世界で誰より一番格好いいです。僕はシロさんが大好きなのに、シロさんがシロさんをそんな風に卑下したら僕はとても悲しいよ」
瞬間シロさんが驚いたような表情で、その後、泣きそうな嬉しそうな顔で僕を抱き締めてくれたんだ。そのまま僕は抱きあげられて、シロさんの膝の上でご飯を食べた。
「1人で食べられる」って言おうと思ったんだけど、僕に食べさせているシロさんの顔があんまりいい顔しているから、何も言えなかった。だから、僕も貰った半分はシロさんに返して仲良く一緒にご飯を食べたんだ。美味しかったよ。
お腹も膨れて、さてどうしよう……という段になって、シロさんが何かを思い出したように自身の服のポケットを漁った。そして取り出した何かを掌の中に隠すようにして「これをお前に……」と、手渡されたのは綺麗な紅い水晶だった。
「わぁ、綺麗。これ、どうしたの?」
朝日を浴びてキラキラと煌めくその紅い宝石はとても綺麗で、そんな物をいつ手に入れたのだろう? と、僕は首を傾げる。
「これは魔物の核の欠片でそれその物にはさして価値のある物ではないのだが、それは私が初めて自分の手で倒した大物の魔物の核でな、できればスバルに貰って欲しい。魔物の核には微量の魔力も宿っている、スバルには似合うと思う」
「へぇ、魔物の核って綺麗なんだねぇ。ありがとう、大事にする」
少しだけ魔術の上達した僕はその小さな紅い核にワイヤーを巻くように固定して、ネックレスを作って首にかけた。うん、とてもいい感じ。
「えへへ、似合う?」
「あぁ、とても似合っている」
瞳を細めるシロさんはとても幸せそうな表情で、僕もとても幸せだよ。
シロさんの膝からおろしてもらった僕は、少し自分の腰に違和を感じる。まぁね、アレだけやればどうしたって腰砕けにはなるよね。そんな僕のよぼっとした姿に「大丈夫か?」と、シロさんは心配そうな表情。
「うん、平気平気」
そうは言ってみたものの、まだちょっと関節痛いし、中には何か入ってる感じするし、肌着に擦れて痛かった胸もまだちょっと痛いままだし、満身創痍なのは間違いない。
怪我したわけじゃないからね、恥ずかしくてあんまり大きな声では言えないけど。
「帰ろうか、きっとコテツ様達も待ってるよ」
「あぁ、そうだな」と、シロさんが手を差し出すのでその手を取って僕達は歩き出す。この部屋の扉、そこは僕達の帰る家に繋がっているとコテツ様はそう言っていた。
忘れ物がないか確認して扉のドアをひねる、その先は……
「ねぇ、これ、入ればいいのかな?」
「コテツ様がそう言ったのだろう?」
扉の向こう側は何か空間がぐにゃりと歪んでいて向こう側が見えない。恐る恐る腕を伸ばしたら、向こう側に抜けたので向こうには行けるみたいだ。でも、どこに繋がっているのかな? なんて思ったら、ふいに向こう側から強い力で腕を引っ張られた。
「え! え!? なに!?」
「どうした、スバル!?」
「腕、引っ張られてる、やだ、何コレ、怖い!!」
何かに掴まれている、と言うよりは何かに巻きつかれている感じ、そう蛇が腕に巻きついているみたいなそんな感じで、僕はそれに抗うのだけど、それはするすると腕を巻き取りこちらへと伸びてくる。
「これは! 魔物かっ!!」
幾筋かの触手のような物が扉のこちら側にも顔を覗かせる。シロさんが僕を抱き寄せるようにこちら側へと引っ張ってくれるのだけど、腕は絡め取られたまま抜ける気配もない。
「やだ! やだ!! やだ!!! 何コレ、シロさんっ、怖いっ!!」
ずるずると身体が引っ張られる、それに抗おうと踏ん張るのだけど如何せん僕の腰はがくがくで踏ん張りが効かない。僕はずるずると扉の向こう側へと引き摺られ、抗おうにも抗えない恐怖に背筋が凍った。
そして何故か不思議な事にシロさんは僕とは逆にその向こう側には干渉できないようで、そのぼやけたような空間から向こう側へと手を伸ばす事が出来ない。シロさんには壁のようになっているその空間をシロさんは拳で殴りつける。
「スバル、私の身体を掴んでいろ! 絶対に離すなよ!!」
「うん、うん」
けれど、僕の身体は段々に向こう側に引きずり込まれて、涙が零れた。何なのこれ!? こんなの聞いてない!!
「くそっ、これも私への試練なのか!? もし、これがまたコテツ様の戯れなのだとしたら、私はもう二度とあの方達を許さない!!」
ふいに、引っ張られる力が弱まった。腕が解ける……と、手を引こうとした瞬間、扉の向こう側から無数の触手がぶわりと溢れ出し僕の身体ごとその触手は僕を絡め取った。
「スバル!!」
「シロさ……」
言葉は最後まで発する事ができなかった、何故なら触手は僕を完全に包み込み、僕は繭のようになって扉の向こう側へと引きずり込まれたからだ。そして僕はそのまま意識を失い、次に目が覚めたのは、何故か僕の世界の僕の家、そして僕のベッドの上だった。
「な……んで」
「目が覚めたようね、シリウス」
ベットの傍らに居たのは僕の母親。でも、何で母さんは僕をシリウスさんの名前で呼ぶの?
「シロ……さん、は?」
「……? 何を言っているの?」
「シロさんは何処? ねぇ、母さん、シロさんは!?」
戸惑い顔の僕の母親が「少し休みなさい」と、僕の頭を撫でる。
そんな場合ではない! と僕の心は焦るのに、何故か僕の意識には霞がかかり、僕はまた再び眠りに落ちた。
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