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僕はシロさんに会いたいです
僕が僕の元々住んでいた世界に戻って1週間、僕はリビングで何をするでもなくごろりと転がっていた。
だって、学校へ行こうにも、この猫耳と尻尾付きじゃ外だって歩けやしない。せめて家事でもやろうと思っても外に洗濯物も干せないし、買い物だってできないのだ。家の中の掃除くらいはできるけど、あんまり家の中に人の気配を漂わせていると、招かれざる客も来るしね……
ほら、今日も家のチャイムが鳴る。新聞勧誘に宗教勧誘、押し売りセールスとか、もう全部ノーサンキューだから!! それに僕は対応だってできないからね! もう全部無視無視無視、だけど、こんな生活いつまで続くのかと思うと溜息しか出てこない。
僕の足元では猫のクロが呑気に毛づくろいをしているけど、一体いつになったらクロは父さんになるんだろう? ってか、本当にクロは父さんになるのかな?
僕の父親『大賢者クローム』、僕はまだそんな父親に一度たりとも会えずにいる。
「ねぇぇ、クロぉ、いつまで猫のままでいるつもり? 父さんいつ起きるの?」
そんな事を言ってもクロは知らん顔のままで答えてはくれない。
僕は諦めてテレビを点けた。そこに映るのはワイドショー、連日行方不明の女子高生の話題でもちきりだ。
実を言えば我が家にもそんな取材の人間は何人も訪れる、もちろん僕はそれにも対応はできない。行方不明の女子高生は隣家に住む橘美鈴(たちばなみすず)。もちろん僕だって、彼女の安否は気になるし、一緒に探したい気持ちもあるけど、現状それはできなくて、またしても溜息を零した。
チャンネルをぽちぽちと番組を変えると、そこにはやはり事件のニュース、隣県で起こった通り魔のニュース画像に僕はまた何度目かの溜息を吐いた。だって、そこの事件現場に魔物が大きな口を開けて映ってるんだもん、いやいや、ホントそういうの見たくなかった……
どうやら今まで僕の瞳には父さんの魔法で封印がかかっていたらしくて、そんな魔物を見ることはできなかったんだけど、帰ってきた途端にそれが全部包み隠さず見えるんだよ……この身体がシリウスさんのものだからかな? 僕の瞳には今はそんな封印はないみたいで、家の外を覗けば小さな魔物がその辺にころころ転がっているのが見えるんだ。
基本的に害はないから放ってあるけど、こっちの世界には魔物を倒すようなハンターもいないし、はっきり野放し状態で、これあんまり良くないんじゃない? と思わなくもない。
この世界では何かたくさん事件が起こっている、だけど僕は何もできなくて、ただひたすらに家に籠っている事に嫌気が差す。僕にできることとか、何かあったりしないかな?
少しくらいなら魔物退治もできるかもしれないよ? だけど現状この世界では僕の方こそが異形の化け物で、外にも出られない訳だけど……
ピンポンと家のチャイムが鳴った。僕はこそりと玄関を覗く、そこに立っていたのは美鈴の兄の橘大樹で、僕は隠れるように自室に逃げ込んだ。
大樹は日に一度は僕の家を訪れる。それもそうだ、妹の行方を知っているかもしれない唯一の人間が僕なのだからそれは家族として当然の行動だと思う。けど、僕は彼の前に立つこともできない。
申し訳ないとは思っているんだよ、だからこそ一刻も早く父さんに目を覚ましてもらって話が聞きたいのに、父さん目を覚まさないんだもん!!
魔物から助けてもらったの、ものすごくありがたいけど、この現状もどうにかして! と叫びたい。だって、この事件の元を正せば全部全部父さんのやった事が原因なんだから、その尻拭いは父さんがするべきだと僕は思うんだよ。
シリウスさんの持っていたSDカードの中には僕と北斗、そして父さんと母さんが仲睦まじく写っている写真も残されていた。母さんの言っていた通り、父さんは白に斑のユキヒョウで、そりゃもうもっふもっふしていた。僕のもふもふ好きって、無意識で父さんのことを覚えていたのかもしれないね。
「シロさんに会いたいなぁ……」
僕はベッドに転がり瞳を閉じた。シロさんに貰った紅い水晶を握りしめながら、僕を呼ぶシロさんの姿を思い出す。
僕の頬を優しく撫でる大きくてもふもふの腕を思い出し、僕は自分の身体を抱き締める。
本当はこんな事をしている場合ではない事は分かっている、それでも僕はシロさんが辿った指を思い出し自身の肌を撫でていく。
服の中に指を這わせ、胸の突起は柔く揉み込むように触れてくれた。尻尾の付根はリズミカルにとんとんと優しく優しく撫でてくれて、そんな事を思い出した僕の腰はぴくりと持ち上がる。
誘うような尻尾がゆらりゆらりと左右に揺れた。誘いたい相手は今ここにはいないのに、僕の身体は勝手に熱を上げて下肢を濡らす。うつ伏せに腰を上げ、揺れる尻尾は唇に食んで両手でその秘部に触れる。
そこはもう既に濡れていて僕の指は簡単に飲み込まれていく。それもそうだ、そこはあの大きなシロさんのモノだって飲み込めたのだもの、むしろ自分の指なんかでは物足りなくて腰を揺らした。
「んっ、んんっ……」
今までの僕のオナニーなんて、ちょっとHなことを考えながら擦って終わりだったけど、それだけじゃ満足できない気持ちよさを知ってしまったからね。それは一人では得る事ができない気持ちよさで身体が疼いて仕方がない。
擦って出すだけより、愛を囁かれながら奥まで突かれて、吸われ舐められ撫でられて……そんな事を思い出しただけでぞくぞくしちゃう。
零れた体液が腿を伝って零れ落ちるほどに僕の身体は気持ちいい事に敏感な身体に変わってしまった。シロさんが僕をそういう風に変えたんだ。僕、このまま淫乱になっちゃったらどうしよう?
「ふぅ……ぅぅ、シロさんに会いたいよぉぉぉ」
別にHがしたくて会いたい訳じゃない、単純に1人でいるのが悲しくて寂しくて、シロさんは僕のそんな孤独な心を知ってか知らずか、いつでも一緒にいてくれたから、僕はもう寂しくて寂しくて仕方がないんだ。
こんな事を1人でしていても虚しいだけだ、だけど現状自分にできる事が何もなくて、僕は自分の身体を慰めた。
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