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なんか色々バレちゃった
ふと、気が付くとすっかり日が暮れていた。どうやら、いつの間にか寝入ってしまっていたみたいだ。時計を見やれば既に夜の10時を回っていて、母さんなんで起してくれなかったんだろう? と思いつつ、リビングへと向かう。
リビングにはクロがいて「にゃあ!」と怒ったように足に纏わり付いてくる。あれ? ご飯まだ食べてない? 母さんは?
クロにご飯をあげて顔を上げたら、固定電話の留守電メッセージが点滅しているのに気が付いた。基本的に「かかってきた電話には出るんじゃない」と言われているので、ずっと留守電にしっぱなしなんだよね。
僕がメッセージを再生すると、それは母からのメッセージで、急病の患畜が運び込まれて帰りが遅くなる、下手をしたら泊りかもという内容で、僕はそのメッセージを確認して消すとソファーに座り込んだ。
「お腹空いた……」
何もしていなくても腹は減る。なんだか作るのも億劫だ。
外に出たら駄目だと言われているけど、こんな時間だし、ちょっとコンビニに行くくらいなら出かけてもいいかな?
耳はフードで隠せばいいし、尻尾はなんか飾りだと思ってくれないかな? 無理かな……とりあえずズボンの中に収めておこう。
僕は久々の外の空気に深呼吸する。やっぱり家に籠ってばっかじゃ駄目だね、気分も滅入って嫌なことばかり考える。
コンビニは僕の家から徒歩5分、その道程の途中に北斗が持っていたお守りを売っている神社がある。実はその神社、父さんと母さんが出会った神社らしいんだよね。巡り巡って戻ってきたって母さんは言っていた。
何とはなしに神社を見上げていたら「おい!」と声をかけられた。
「!?」
びっくりして、ズボンの中の尻尾が膨れる。だって、まさかこんな所で声なんかかけられると思ってなかったから!
恐る恐る声をかけてきた人物を見やると、それは美鈴の兄、大樹さんだった。
「あ……」
「もう、出歩いても大丈夫なのか?」
「えっと、まぁ……」
「だったら、少し話しを聞かせて欲しいのだけど」
「あの、ごめんなさい。僕、事件の時の事なら全然覚えてなくて……」
もう、ここは知らぬ存ぜぬで押し通すしかない。実際僕は美鈴の所在に関しては本当に何も知らないのだから。
「そんな訳ないだろう! 美鈴はお前と一緒にいたんだ、それはたくさんの人間が証言している!」
「でも、僕、本当に覚えてないんです……ごめんなさい!」
後ずさるように逃げ出そうとしたら、大樹さんに腕を掴まれた。
「ごめんですめば警察はいらないんだよ! 何でもいい、教えてくれ。それともお前が犯人で、美鈴をどうにかしたんだったら……」
「それは、絶対違います!!」
「お前は覚えていないんだろう! 何故絶対だと言い切れる!」
怖い怖い怖い。僕、大樹さんに疑われてたんだ……でも、本当に僕は何も知らないんだよ!!
その時、一陣の風が吹きぬけて、僕の被ったフードを煽る。あ……と、思った時にはフードが外れて僕の耳がぴこんと空気に晒された。
「……なんだこれは……」
その猫耳を見た大樹さんの第一声。僕は返事もできずにその掴まれた腕を振り解こうとするのだけど、大樹さんの僕の腕を掴む力は弛まない。
「ふざけているのか! 馬鹿にしているのか!? 美鈴が行方不明でこっちが懸命に探し回っているのに、お前はこんなコスプレで深夜徘徊を楽しんでたってのか……ふざけるなっ! お前!!」
大樹さんが僕の耳を引っ掴む。
「やめっ! 痛い痛い痛いっっ!!!」
痛いし怖いし、僕はもう涙目だ。怒りにませた大樹さんの力は強いし、僕は本気で耳が千切れるのではないかとそう思った。
けれど、いくら引っ張ってもその耳が取れないと分かった大樹さんは怪訝な表情を見せる。
「なんだ、これ……」
僕は、片手でその耳を隠すように蹲る。だって、彼が腕を離してくれない。逃げたくても逃げられない。
「おい、お前これは何なんだよ!」
「そっ……そんなの僕が聞きたいよっっ!! うぁぁん」
ついに涙が堰を切った。そんな怒鳴られたって、僕に分かる訳ないじゃないか!!
泣き出した僕に戸惑ったのだろう、大樹さんは途方に暮れたように僕を見ていたのだけど、僕はその涙を止める事ができずに泣き続けた。
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