シロさんの旅立ち

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シロさんの旅立ち

スバルと唯一連絡の取れる手段になるのであろう魔道具を取り上げられた私は、途方に暮れていた。何故誰も私の話を聞いてくれないのか、一体私達が何をしたというのだ? ただ私達は共に生きたいと、そう願っていただけなのに…… 身体はとても疲れていて、けれど頭が冴えて休む事ができない。考えるのは愛しいスバルのことばかりで、一睡もできぬまま私は翌日の朝を迎えていた。 夜明けと共に町の長ラウロ様の屋敷へと向かう。私は明朝まで待てと言われてちゃんと待っていたのだ、どれだけ朝が早かろうとも文句など聞きたくもない。 「シロウ?」 声をかけられ振り返る。そこには疲れたような表情のグレイが立っていた。 「早いな、シロウ。何処へ行く?」 「そっちこそ、何をやっているんだ?」 「あんな化け物そうそう出るものでもないだろうが、警戒は怠る訳にはいかないだろう? 寝ずの番は必要で、こんな時には若衆にお鉢が回ってくるのはいつもの事だ」 誰も彼も戦闘で疲れ果てて倒れるように寝込んでいるのだろうに、そんな中でどうやらグレイは寝ずの晩で町を見張っていたらしい、ご苦労なことだ。 「シロウ……昨日は悪かった」 「……?」 突然何を謝られたのか分からない私は首を傾げる。 「お前の妻がただ一人だという事は分かっている、あんな時にかける言葉じゃなかった。本当にすまん」 そこまで言われて思い出した。グレイは昨日私に向かって「また別の嫁を探せ」とそう言ったのだ。スバルは死んだものと頭から決めてかかって、そんな事を言われた私はグレイに当り散らして帰ったのだった。 「スバルは生きている、それが分かったから、もういい」 「!? 生きていたのか!?」 「あぁ、生きていた。だが……」 「何かあったのか? 怪我でもしているのか?」 怪訝な表情のグレイに私は首をふり、自分は父の魔道具でスバルと話したことをグレイに告げる。 「だったらお前の妻はどこか安全な場所にいるという事だな。何処にいるんだ?」 「それがどうにも分からない。だからそれを知りたくて、昨日コテツ様を訪ねたのだが門前払いを食らった上に、ウルに魔道具を取り上げられた」 「ウルに? 何故だ?」 グレイの疑問はもっともだ、けれど私はこれをグレイに告げていいのか分からない。スバルが大賢者クロームの子であるという事、それをウルに告げた途端にウルは態度を一変させた。 この世界を破滅に導こうとした大賢者クローム、スバルが本当にその子供なのだとしたら、きっとグレイの反応もウルと大差はないだろう。だが、疑問はもうひとつ、スバルは自分とシリウスは双子の兄弟だとそう言った。という事は、私と今まで一緒に暮らしていたシリウス自身も大賢者クロームの子であるはずなのだが、その事を知っているのは今のところ私だけなのだ。 いや、本当にそうなのだろうか? シリウスを私のもとに連れてきたのは父だった、そしてスバルと連絡の取れたあの魔道具の持ち主も父なのだ。とすると、もしかしたら父はその事を知っていた可能性を私は否定できない。 「私はそれを知るためにラウロ様、コテツ様を訪ねて行くのだよ」 私には何も知らされていない。けれど、お2人ならば父から何かしらの事情を聞いている可能性もあるのではないだろうか? グレイは「ふむ」とひとつ頷き「俺も行く」とそう言った。 「なんでだ? 付いてくるな!」 「1人で抱え込むな、シロウ。お前、酷い顔をしているぞ」 覗き込むようにして言ったグレイの言葉、やはりグレイは私を哀れんでいるのだ! 新婚初夜に花嫁を魔物に攫われた間抜けな花婿を、心の中で嘲笑っているのだろう! 「大きなお世話だ! 子供扱いするな! 私は自分の力でスバルを見つけ出してみせる! 同情ならば結構だ!」 「シロウ……」 踵を返して歩き出す。私は1人でスバルを取り戻してみせる。誰の手を借りる気もない!
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