僕、どうやら異世界に来ちゃったみたいです

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僕、どうやら異世界に来ちゃったみたいです

その日はことのほか眠たくて、やりかけのゲームもそこそこにベッドに入った僕が、眩しい日差しに目を覚ました場所は、何だかよく分からないのだけど、もふもふの上だった。 「もふ……? え? 何コレ?」 家にこんなふかふかの布団なんてあっただろうか? と小首を傾げるのだが、まだ頭の中がはっきりしない僕はそのもふもふに頬を擦りつける。 柔らかい、あったかい、気持ちいい。それはまるで飼い猫のクロの腹毛に触れているような感覚に、僕がその毛並みを撫でると、その布団と思われるふわふわが身動ぎをした。 身動ぎ? え? 今、布団が勝手に動いた……? 驚いて、がばりと身を起こしたら、そこには巨大な犬の顔。思わず「ふぁ!?」と変な声が出た。 「目が覚めたか、シリウス」 犬が喋った!? は? ってか、これ犬!? でかすぎない? いやいや、絶対でかいだろ! 友達の家にいる大型犬の秋田犬だってここまで大きくなかったぞ! この犬、明らかに僕より大きいじゃん! ない、ない、なんだよ、これまだ夢か? 「シリウス?」 大きな犬の鼻が僕の顔に近付いて、僕の頬を突く。いや、シリウスって何? 人の名前?ってか誰? 僕の名前は昴(すばる)だよ、大崎昴17歳、ぴちぴちの男子高校生だよっ! 「やはり、まだ回復しきっていないのか、重症だったからな……」 重症? 何が? 僕何か病気でもあったの? いや、いや、いや、でもそんな記憶欠片もないんですけど??? そもそもわんこに心配されるってどうなの? 僕どっちかと言えば猫派なんだけど、いや、犬も嫌いじゃないよ? だけど、犬って忠誠心全開で懐いてくるだろ? なんかちょっと居たたまれないんだよね、僕そこまで信頼されるような人間じゃないからさ! 「シリウス、私が分かるか?」 ごめん、正直全く分からない。しかも『シリウス』って僕の名前? ここどこ? あぁ、もしかしてやっぱりまだ夢の中?! そうだよね、うん、そうだ。だってこんなのあり得ない。 「寝る」 いや、起きるべきなのか? でも、今僕は夢の中で起きている状態で、ここで寝たら現実世界で目が覚める可能性だってあるよね? あ、でも待って、この夢結構リアルで面白そうな気もするし、ここで起きるのちょっと勿体なくね? 「やっぱり、起きる……」 「シリウス、本当に大丈夫か?」 「僕の名前は昴だよ。わんこさん、君の名前は?」 瞬間目の前の大きな犬が怪訝な表情をしたのが分かった。犬の表情って意外と豊かだよね。 「やはり頭を打ったのか……?」 「それはよく分からないけど、僕はシリウスなんて名前じゃないし、わんこさんの事も分からないよ。そんでもって、ここ何処?」 「私はわんこではない、狼だ。本当に分からないのか、シリウス」 「うん、だから全然分からないって言ってる。これは僕の夢の中なのかな? やけにリアルだし、触れるし、でも僕の世界では動物は言葉を話さない、だからこれはやっぱり僕の夢なんだと思う」 「私は『ドウブツ』などというモノではなく獣人だ」 「獣人?」 ゲームの世界ではよく見かけるけど、本物なんて見た事ないよ。へぇ、だったらこの夢、ゲームの中の世界なのかな? そういえば昨晩やりかけたゲームの中にも仲間に獣人がいたような気がする。ビジュアルはもっと人に近かった気がするんだけど、この世界での獣人の姿は獣に近いのかな? 喋る獣が獣人? 「私の名前はシロウ、本当に覚えていないのか?」 「覚えていないって言うより、僕はここの人間じゃないと思うよ?」 「だが、お前の姿はそのまま私の義弟シリウスのものだ」 義弟? 義理の弟? あれ? って事は僕も獣人なんだ? 自分の手足、もふもふしてないんだけど……あれ? でも、もしかして尻尾ある? 後ろを振り返れば、尻の間から温かそうなもふっとした尾が生えていて、それは自在に操る事ができた。おぉ、凄い! だけど、シロウさんみたいに完全な獣人じゃない感じ? 半獣人? 僕が自分の手足を眺めて首を傾げていると、シロウと名乗った獣人はまたしても鼻面を近付けてきた。 「姿形はそのままに、匂いだって変わらないのに、別人だと言われても信じられる訳がない」 「そうは言われても、事実だから仕方ないよね。夢なら早く覚めるといいんだけど……」 「お前は本当にシリウスではないのか?」 「だからさっきからそう言ってる」 シロウと名乗った大きな犬……もとい、狼さんは不審顔で僕を見やった。それにしてもシロウさん、綺麗な毛並み。隅から隅まで真っ白で、きらきら輝いて見える。 「また私をからかっているんじゃないのか?」 「シリウスさんと兄弟仲いいんですね、でも生憎本当に嘘じゃないし、からかってもないですよ」 大きな獣人シロウが身を起こす。その身体にもたれかかるようにして寝ていた僕は思わずころりと転がってしまった。っていうか、身体起すと更に大きいね? 僕の1.5倍くらいかな?しかも四足じゃないんだ? 二足歩行? まぁ、獣人だもんね、半分人で半分獣って事か。 そのもふもふ気持ちよかったのに……と名残惜しげに見詰めていたら、シロウはいそいそと上着を羽織る。 ってか、服着るの? 毛皮纏っているのに服も着るの? だったら何? もしかして僕は彼に裸で抱き締められていた状態だった訳? 「どうやらこれは現状確認が必要なようだ」 「うん、そうだね。僕もそう思う」
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