僕、どうやら魔法が使えるみたいです

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僕、どうやら魔法が使えるみたいです

「この世界を知る為に、少し外へ出てみるか?」 シロさんの提案で、朝食を食べ終えた僕達は外出を決めた。ちなみに異世界の食事に僕は少しばかり不安があったのだけど、そこは意外と普通にパンにスープに肉、野菜、で思っていたほど変な物が出てこなかったのでほっとした。 まぁ、言ってもその肉がなんの肉なのかまだ聞いていないし、野菜は……というか、野菜と思われるモノは(味は普通に野菜だった)調理するまでうごうごと蠢いていたりもしたのだけど、まぁ、味は普通だった。きっとアレだ、鰹節がお好み焼きの上で蠢いているように見えるみたいなそんな感じ、たぶん。 シロさんの家の台所は少しばかり僕には大きくて、踏み台用意しなきゃ……と、この家で生活する為の日用品を頭の中で考える。 「そういえば、シリウスさんの家って何処なの?」 「ん? すぐ裏手だぞ」 「え!? 近っ、予想外」 別々に暮らしていると言うので、ある程度離れて住んでいるのかと思いきや、まさかの裏の家、もういっそ一緒に暮らせばいいじゃん、別々に住んでる意味が分からないよ。 「寄って行くか?」 「うん、服とかそういうの、持って……って、ちょっと待って、逆にこれだけ近かったらシロさんと一緒に住む必要なくない?」 「それは駄目だ、スバル。この世界はお前にとっては危険だぞ」 う~ん、真剣な表情で言われてしまったけど、でも、だって裏の家だよ? 何かあったらシロさんの家にすぐに逃げ込めるよね? それにシリウスさんの家はシリウスさんサイズの家な訳で、つまりは僕にあったサイズの家って事だよ、シロさんの家で不自由に暮らすよりは自分のサイズに合った家で暮らした方が生活は楽な気がするのだけど…… けれど「スバルは私と一緒に暮らす、と言ったではないか……」と、シュンとしてしまったシロさんに申し訳なくなって、僕はそれ以上頑固に一人暮らしを断行するとは言えなかった。 シリウスさんの家の中を覗き込むと、家の造りはシロさんの家とそう大差はなかった。しいて言えば当たり前だけど、サイズがちょうど良くて、過しやすい。ただ、シロさんは少し窮屈そう。玄関扉ですら屈まなきゃだもんね。 「着替え、着替え……」 色々シロさん宅に持ち込もうと考えていた僕だけど、こんなに近くに家があるならとりあえず着替えだけあれば充分だ。クローゼットを漁る僕の背後に立ったシロさん、なにやら愛でるように僕を見ている。 「なに……?」 「しっぽが……」 「しっぽ?」 しっぽがどうしたと言うのだろう? 僕は自分の背後を振り返って己の尻尾を確認するのだけど、別段変わった所があるようには見えない。 「いや、そんなに機嫌良くしっぽを振っているシリウスを見た事がなくてな……」 あぁ、そうなんだ? 勝手に動いてるんだから僕には確認のしようもないけど、だって僕、別に機嫌悪くないしね? むしろ、ちょっと楽しいくらいだし。 「だからって、しっぽ触っちゃ駄目だからね~シロさんはしばらくお触り禁止」 「え……!? 何故だ!?」 「何故って、当たり前だろ? さっき僕にした事忘れたの? 僕、嫌だって言ったのに、止めてくれなかったんだから、もう当分触らせてあげません」 「あれはスバルがあまりにも無防備だから、警告の意味も込めて……」 「だから警戒してるんだろ、警告ありがとね~」 最後の方は棒読みで、僕はまたクローゼットの中を漁る。さっきシロさん、ちょっと楽しんでたの、僕もう分かってるんだからねっ! 服は気候に合わせた物を数点選び出して、他にも何かあるかと漁っていたら、小さな小袋を発見、僕は中を覗き見る。 「ん……?」 「どうした?」 「これ、お守り……」 小袋の中から出てきたのは、なにやら見た事のある僕の家の近所の神社で売っているお守り袋。ずいぶん色褪せているけれど、安全祈願のお守りだ。 「オマモリ、とは何だ?」 「え……えっと、神様がその人の身を守ってくれますようにっていう……」 「護符か!」 「ごふ……?」 「神殿で授けられる、祈りの込められた守りの札だ」 「あぁ、そう! そんな感じ!」 言葉は通じるんだけど、微妙に文化が違うんだよねぇ。この世界ではお守りは『護符』って言うんだね。 「だが、それは護符とは少し違うように思うのだが?」 「うん、だからお守り袋だし。しかもこれ、僕の家の近所にある神社のお守り袋だよ」 「スバルの家? では別世界の物、という事か? 何故シリウスがそんなモノを持っている?」 「それ、聞きたいのは僕の方なんだよなぁ」 僕はしげしげとそのお守り袋を眺めて、とりあえず持って行こう、とポケットの中にそれをしまいこんだ。 着替えを持って、僕は部屋の中を眺め回し、ふと疑問を口にする。 「ねぇ、シロさん、さっきシロさんは朝御飯を作る時に火を使っていたと思うんだけど、この台所のコンロ、スイッチも何もないけど、どうやって火を焚いているの?」 「ん? 火? それなら火の精霊を呼び出して……」 「ちょっと待って、火の精霊……?」 「あぁ、そうだ。火の精霊に火を分けてくれとお願いして……こんな感じだ」 シロさんが少しばかり目を瞑って、しばらくするとコンロにぽっと火が点る。って、こんな感じって、どんな感じ!? さっぱり分からなかったんだけどっ!? 「ねぇ、これって魔法!? シリウスさん、魔法は使えないんじゃなかったっけ!?」 「これくらいは魔法・魔術の部類にも入らないな、子供でも出来る事なんだが、出来ないのか?」 「出来る訳ないじゃん! そもそも精霊って何さ!?」 「はて……? 改めてそう言われると困るな、しいて言うなら、目には見えないがソコに在るモノ、だろうか?」 「空気みたいに?」 「クウキ?」 「今、僕達が吸って吐いてしているモノ」 「水の中に入る時は風の精霊と大地の精霊の加護を受ける、それがスバルの言うクウキにあたるだろうか?」 「えぇ……」 僕はどう反応を返していいのか分からない。どうやらその精霊の加護、というのは魔法とは違う次元でこの世界に根ざしているようで、シロさんはそれが不思議なモノ、もしくは現象であるという認識はない様子。もしかして、その精霊の加護で水の中でも息できちゃうのかな? いよいよもってファンタジーだ。 「子供でも出来るって事は、僕にも出来るのかな……?」 「普通に出来るだろう? 魔法・魔術というのはその精霊の加護を自分の意思で自由自在に操る事を言うのだが、シリウスはそれがあまり得意ではなかった。それでも種火くらいは普通に出していたぞ」 シロさんが軽く手を振るとコンロに点った火は消える。 「やってみるか?」と、問われたが、そもそもやり方が分からない。 「それって、どうやるの?」 「頭の中で精霊に『火を分けてくれ』と、呼びかける」 「火を分けてください、いいいぃ!!?」 僕がそう声に出して言った瞬間、ばふんっ!と、コンロに火の手が上がった。それは完全に火柱の域で、僕は悲鳴のような声を上げてしまう。 「ちょ、シロさん! 火事っ! 水っっ!!」 「落ち着け、スバル」 「落ち着ける訳ないだろっ! むしろなんでシロさん、そんなに落ち着いてんの!? 水! どこっっ!?」 僕が大慌てで水道の蛇口をひねろうとすると、何故か水道の蛇口が勝手に回り、勢いよく水が吹きだした。今度は何なの!? この家どうなってんの!!? 僕が目を白黒させていると、シロさんにもう一度「落ち着け」と、後ろから抱きこまれた。 「精霊よ、去れ」 シロさんのその一言で火柱はシュン、と収束し、蛇口から吹きだした水は勢いを落とし、そのうちぴちょんぴちょん、と水滴を落とす程度にまで弱まったのだけど、僕には今目の前で何が起こったのかが分からない。僕は力が抜けてシロさんの腕に縋りついた。 「怖い、火の精霊、怖いぃぃぃ」 「いや、おかしいな……」 僕を抱きこんだままのシロさんは何故かとても困惑顔だ。 「無理、無理無理、こんなの怖くて使えない。なんなのアレ……」 「今日は精霊の機嫌が良かった……のか? いや、でも……」 「なに? どういう事?」 「いや、普通なら精霊はあの程度の呼びかけであそこまで活発に動く事はない。そもそも精霊は気紛れで、働きたくない時は働かないし、人の好き嫌いも激しい。どちらかと言えばシリウスは精霊には嫌われていて、だからこそ魔法を使うセンスがないと言われていた訳だが、もしかしてスバルは精霊に好かれている……?」 「えぇ……」 あんな火柱を上げて、ひとつ間違えば大惨事なのに、それでいて精霊に好かれてるとか、意味分からないよ! 好いてくれているならもっと穏便に好いてよね! 「これは一度、じいさんの所に顔を出した方がいいかもしれないな」 「じいさんって、さっき言ってた魔法使いの先生?」 「いや、さっき言っていたのは故郷の話だ。この街にはこの街で、魔術を扱うじいさんがいる。正しくは『魔術師』だがな」 「もしかして、僕、魔法使えたりするのかも?」 「今の所はもしかしたら、という感じだがな」 「ホントっ!? やったぁ!!」 こんな世界で身を守る術が自分の爪だけじゃ滅茶苦茶心許なかったんだけど、剣が使えない代わりに魔法が使えるかもしれない可能性に、先程の恐怖も忘れて僕は浮かれる。 「だが、そう思うとやはりシリウスとスバルは別人……という事なのだろうか?」 「普通にそうだよね? 僕、何度もシリウスさんじゃないって言ってるじゃん、シロさん、まだ信じてなかったの?」 「だが、それでも姿形はシリウスなんだぞ?」 「そこは本当に謎だよね、確かに僕の世界の僕には耳も尻尾もなかったから、この身体は僕の身体じゃないのは間違いないよ、だけど実際『僕』はここにいて、自分は自分だと思っているんだから、やっぱりシリウスさんとは別人なんだよ」 「中身だけが入れ替わった……? それが精霊の加護にまで影響するのか?」 「それは僕にも分からないけど……ねぇ、ところでシロさん、そろそろ放してくれない?」 実は先程からずっとシロさんの腕の中に抱きこまれたままだった僕は身動ぎする。シロさんも忘れていた、という感じで僕の身体を放してくれて、ようやく僕は彼の腕の中から解放された。見れば僕の尻尾はまだ少し膨らんでいて、愛猫クロの尻尾を見ているみたいだ。びっくりしたからね、仕方がないね。 「そういえばクロ、大丈夫かな……」 なんの事前準備もないまま、こんな世界にやって来てしまった僕は家にいるはずの愛猫を思う。 「クロ、とは?」 「ん? うちで飼ってる黒猫」 「猫を……飼う?」 途端にシロさんが怪訝な表情を見せる。僕、なにか変な事言ったかな? 「それは奴隷……という事か?」 「奴隷? まぁ、猫飼いにとって飼い主なんて奴隷みたいなもんだけど……」 「お前の方が奴隷なのか?」 「うちはお互い干渉しない気ままな付き合いだけど、猫飼ってる人って割とそういう人が多いイメージかな?」 「スバルの世界では猫が人を支配しているのか……?」 「え? いやいや、どういうイメージだよ、本当に普通に飼ってるだけだって、支配とかそういう話じゃないよ?」 どうにも話が噛み合わない、シロさんのイメージしているペットってどんなんだよ? あぁ! もしかして、僕が猫の獣人と暮らしているとか、そんな感じに捉えてたり……? 「この世界にはもしかしてペットっていう概念はないのかな?」 「ペット?」 「動物を飼うんだよ、愛玩動物。それこそ犬とか猫とかそういう小動物」 「中央に住む『人』の中には気に入った獣人を侍らせている者もいると聞くが、そういう……?」 「えっと、そもそも僕の住んでた世界って獣人いないからね?」 「では、動物とは……?」 「二足歩行しないし、人の言葉を話さないし、意思の疎通はできない生き物」 「それは魔物と言わないか? そういえばこの世の中には魔物使いという輩も存在すると聞いた事があるが……」 えぇ、そういう感じ? ものすごく説明難しい…… 「だったら牛や豚とかの扱いってどうなってるんだろう? 食べたりしないの?」 「お前の世界では牛や豚を食べるのか!? なんという非道な!!」 「いや、待って! だったらさっき食べた肉ってなんの肉?」 「魔物の肉に決まっているだろう!」 あぁ、ちょっとそんな気はしてたんだけど、そうなんだね。僕、魔物食べちゃったんだね、うわぁ…… 「分かった、理解した! 要するに僕達の世界の動物は、この世界の魔物なんだ! そもそも僕の世界には魔物って存在がいないから、それがどんなモノなのかは分からないけど!」 「では、スバルの世界では人と魔物が共存している……?」 「まぁ、そうだね。危険な動物、というか魔物もいるけど、余程害がない限り狩ったりもしないかな」 「理解出来ない……」 そんな事言われても僕、困るよ。こっちだって頑張って理解しようって努めてるんだから、そっちも少しは頑張って! 「だが、そうするとスバルは向こうの世界では、黒猫に似た魔物と一緒に暮らしている……と、そういう事か?」 「まぁ、たぶん、概ねそんな感じ」 「危険はないのか?」 「だからお互い干渉しないって言ってるじゃん。元々クロは母さんが拾ってきた猫で、僕にはあんまり懐いてないしね」 「喋ったりは……」 「しないよ、そもそも猫は喋らない。人の言葉を話すって言うならインコとかオウムとかかな」 むぅん、とシロさんは思案顔。 「この世界では魔物の中でも強い個体は人語を解し、我らを襲って来るわけだが……」 「その辺はまだ僕の理解の範疇外です!」 これはどうやら知識のすり合わせには時間がかかりそうな予感がするよ。まぁ、この世界をゲームの世界、もしくはファンタジー小説の中の世界設定と考えれば、全くの別世界として理解できると思うけど、自分の中の常識っていうのはまずは取っ払わないと駄目かもね。 「スバルの住んでいた世界は奇妙な世界なのだな……」 いや、それ、僕の台詞! こんな奇妙な世界に突然放り出された僕の気持ちも理解して!
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