さよなら三月

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さよなら三月

穏やかな日差しがようやく 白く無機質なキッチンを照らし始めた。 まだ整えられていない前髪を マグカップから立ち昇る 暖かな湯気が優しく撫でていく。 おはよう。 キミがカウンターの向こうから そっと呟いた。 おはよう。 ボクは用意しておいた もう一つのマグカップを どこを見ているのかわからない キミの視線の先に置いた。 ふわふわと白く陰る 綺麗に縁取られたキミは、 ふと我に返って、 ありがとう。と言った。 こんな穏やかな朝。 ボク達は 消えようとしていた。 あったかいね、と言ったその、 キミの言葉はきっと最後になり ボク達は この白い空間に同化していく。 ふざけあった好きも嫌いも 狂おしいほどの好きも嫌いも 全部。 唯一、揃えて買ったマグカップは 冷めたコーヒーだけを抱いて キミからも ボクからも 遠くなった。 何も言わずに。
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