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意外な形での再会
「ぐぉぉぉぉぉぉ……」
いきなり俺の唸り声で始まってしまうことを許して欲しい。そもそも、何故唸り声を上げているかと言うと……。
「体中が痛い……」
そう、極度の筋肉痛に苦しめられているのです。今日は日曜日、いつもなら何かしているんだけど今日はベットから起き上がることすらできない。
何故こんなに酷い筋肉痛になったのか……。それは約一週間前の土曜日に遡る。
「失礼しました」
普通なら土曜日は学校はお休みで部活しかないんだけど俺と遥は用事があって学校に来ていた。その用事も終わり、昇降口に向かうため中庭を通ったところ……。
「ん? なんだあいつ」
「え?」
どこかの運動部の指定ジャージーを着て、中庭中央でキョロキョロしている不審な生徒がいた。すると、俺はその不審な生徒と目がぴったり合ってしまい、急いで目を逸らしたが間に合わず。
「ちょっとあなた! こっちまで来て頂戴!」
と、物凄い速さで俺のそばに駆け寄り俺の腕を掴んだ。
「え? なんだいき……うわぁ!」
「サト君!?」
俺が言葉を発し終わる前に腕を思いっきり引っ張られ、すごい速さでどこかに連れて行かれた。すぐに目的地に着いたのかすぐに止まってくれたけど。遅れて、遥が追いついた。
「おい! いきなり何するんだよ!」
「部長ー、助っ人連れてきました!」
「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!」
どうやらここは女子野球部の練習場みたいだ。先程俺を無理矢理ここに連れてきた生徒と同じ服装の人達が大勢いる。すると、さっきの生徒と長身の女子生徒が俺達の方へ歩いてきた。
「あら、ありがとう……で、今度こそ大丈夫なのよね?」
「もちろんです!」
「(あれ? この人どこかで見たことが)って! 助っ人って何!?」
ツッコむのが遅れてしまったが何か助っ人とか言う怪しい単語が聞こえたんだが……。
「あれ? 聞いてないのかしら?」
「聞いてないて言うか初耳ですよ!」
「説明もなく、急に連れて行かれましたので」
「……貴方、どこが大丈夫なのよ、全くダメじゃない」
「えへへー、すいません」
なんて言いながら後頭部を撫でる生徒。「いい加減にしろ!」って言いたかったけど我慢我慢。
「うちの子が何にも説明しないまま連れてきてしまってごめんなさいね」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そう、自己紹介が遅れたわね、私は女子野球部部長の巫乙香よ」
「八乙女遥と言います」
「熾座智です(あ、生徒会長か)」
と、自己紹介すると俺の名前を聞いた途端巫先輩は目を丸くし、驚いた顔をした。
「熾座……智?」
「はい、そうですけど」
その問いかけにハテナマークを浮かべる俺と遥。すると……。
「久しぶりね」
「はい?」
「え?」
と、俺に言う巫先輩。だけど、俺はこの先輩とは初対面だ。俺と遥は巫先輩に背を向けながら。
「サト君、巫先輩と知り合いだったの?」
「知り合いも何もの今日が初対面だぞ」
「忘れてるんじゃない?」
「いや、長身の先輩なんて知らないぞ」
と、こそこそ話をしていると
「……はいって、忘れたの?」
「い、いえ! わ、忘れたも何の初対面ですよね」
と、はっきり言うと巫先輩は驚きを通り越してショックを受けているようだった。
「……」
「巫先輩?」
「……あ、あぁごめんなさいね、知り合いに似てたから間違えたわ。えぇ、そうよね! 初対面よね! 私達!」
と、ヤケクソみたいに言い放った。
「コホン、話は戻るけど来週の土曜日に練習試合があるのだけれどうちが怪我人が続出して一人足りないのよ、そこで熾座君に助っ人として出てくれれば嬉しいのだけど、どうかな?」
「うーん」
正直、面倒臭いので嫌気しかしない。他にも練習について行けるかとか不安要素もあるし、断ろうかなぁ……。なんて思っていると。
「まさか、熾座君、私のお願いを面倒臭いって理由で断ったりしないわよね?」
「……ははは、まさかそんなことは(な、なんだこの人! 心読まれてる! あと、なんだこの逆らったら痛い目に会いそうな予感! なんかすごく威圧されてるし悪寒が走る! ……でも、この逆らえない雰囲気どこかで……)」
と、ダラダラ汗を垂らしながらそんなことを思っていると遥が小声で。
「サト君、どうしたの?」
「な、なんか、汗が止まらないんだが」
「どうするの? 僕も一緒にやろうか?」
「いいのか?」
「いいよ、久しぶりに野球したいし」
「そうか、ありがとう」
こそこそ話すのをやめて、巫先輩の方を向き。
「いいですよ、助っ人。ただし条件があります」
「何かしら?」
「こいつも一緒ならいいですよ」
「いいわよ、受けてくれるのね?」
「はい」
「頑張ります」
「ありがと! 二人とも!」
と、俺と遥の手を握る巫先輩。……顔近いなぁ。
「それじゃ早速で申し訳ないんだけど、実力を見せてもらえるかしら」
「いいですよ」
「わかりました」
「ちなみに野球は?」
「やったことあります」
「僕もです」
「ポジションは?」
「ピッチャーです」
「僕はキャッチャーです」
「そう、それなら熾座君は打者と投手で一打席ずつ。八乙女さんは守備と打撃を見るわ」
「わかりました」
「了解です」
「はいこれ、グローブ。それじゃお願いね」
『はい』
俺達はたまたま持っていたジャージーに着替えるために部室を借りることに。
部室から戻った俺達は準備運動を始め、実力を示す準備を始めた。
「最初は熾座君から、まず投球から見るわ」
「はい(本気出すと疲れるから五割の力でいいかな)」
「キャッチャーは誰かにやってもらおうかしら」
「あ、キャッチャーは遥の方がいいかと」
「どうして?」
「理由はありませんけど、遥にした方がいいですよ」
「……わかったわ、八乙女さんお願いね」
「わかりました」
遥はプロテクターを付け、定位置に着いた。すると、巫先輩が遥の元に行き、なにか耳打ちをしている。何だろう、嫌な予感がする。
「あー、それと熾座君」
「はい?」
「実力を見るのだから、本気を出してもらわないと困るわ。もし、疲れるからって理由で本気を出さなかった場合、八乙女さんに貴方を好きして構わないって言ってあるからね」
「……わ、わかりました(だからなんで心読んでんの!? そんなに顔に出てるの? また! またこれだ! 懐かしい感じがしてとても逆らえない雰囲気がするやつ! てか、遥に対して俺を好きにしていいとかそれ言った間違いなく……)」
俺の脳裏に四日前に起きた朝の学校でのキス騒動が思い浮かぶ。
「(絶対キスされるじゃん! なんてことを言うんだ! 巫先輩は! 遥の奴はニヤニヤしてんじゃねぇ!)」
「それじゃ、始めるわよ」
バッターボックスに野球部の生徒が入る。始まるというのに俺はマウンドの上で棒立ちしている、けど心の中で頭を抱えている。
「本気を出さなきゃ殺される本気を出さなきゃ殺される」
と、ボソボソ言いながら恐怖に震えていると一つの名案が思い浮かぶ。
「(ん? 待てよ? ここで遥を合法的に始末すればキス被害を防ぐことができるんじゃね?)」
なんて、ヤバイ考えが頭の中で駆け巡る。
「(いや! 防げる! ここで遥を合法的に始末すればこの危機を乗り越えることが出来る!)」
と、心の中で思っていると合法的な殺意がオーラとなり、俺の周りを包み込む。
「(ここで……こいつを……潰す!)」
遥に対して明確な殺意を抱きながら俺は振りかぶった。
「うぉぉぉぉぉぉ! オラァッ!」
力いっぱい思いっきり、100パーセントを超え、120ーセントの力で球を投げたら、ゴォォォ! と音を立てて、物凄い速度で遥のミットに一直線に向かっていく。
「きゃぁっ!!」
「え!? ちょっとま……」
ドゴォンッ! と通常では鳴るはずのない音を立てて、遥のミットに収まる。収まった瞬間、バッターは尻餅をつき、遥はボールの勢いに少し押され、プルプルと震えながら下を向き、涙を流している。小さな声で「いったぁ……」と少し素が出たように聞こえたけどそうでもなかった。
「……い、いくつ!?」
「ひゃ、160キロです!」
『160キロ!?』
「なんて人なんですか!」
「八乙女さん! 大丈夫!?」
と、巫先輩が遥の元へ向かっていく。
「だ、大丈夫ですが……もうダメです」
「それって大丈夫じゃないよね!? で、どうだった?」
「本気を超えた本気でした……あと、なんか紫のオーラが……」
最後の方は聞き取れないほどの小さな声になり、遥はその場に倒れた。あまりの手の痛さに気絶してしまったそうだ。
「討伐完了!!」
と、言いガッツポーズ。危機を回避することができ、しばらくは俺の唇は奪われることはない。やった、やったと思いつつ喜んでいると巫先輩がこっちに来て……。
「本気を出せって言ったけど出し過ぎよ」
「ははは、すいません」
「まぁ、なんとなくわかったわ、貴方がキャッチャーに八乙女さんにしろって言った理由、でも、多分怪我してるでしょうし、助っ人は貴方だけにお願いするわ、当日のキャッチャーは私がやるわ。今日はもう帰っていいわよ、明日も練習あるからサボらず出るように」
と、先程と同じように逆らえない雰囲気を纏い始めた巫先輩。
「りょ、了解です。あ、そ、それと一つ」
「何かしら?」
俺は一番最初に言わなきゃ行けなかったことを最後に言った。
「俺、男なんですけど大丈夫なんですか?」
と、言うと周りの生徒の動きが止まり全員が俺の方を向く。そして、しばらく沈黙が続いた後。
『えぇぇぇぇぇぇ! 男なの!?』
と、全員で驚きの声を上げる。しかし、一人だけ驚きもしなかった人物がいた。巫先輩だ。
「……知ってるわよ、別にバレなきゃ問題ではないのよ」
と、一言。それを聞いて俺は「それでいいのか、生徒会長」って言いそうになったが言ってしまったが最後、何をされるかわかったもんじゃないからぐっと抑えた。……てか、なんでこの人俺が男だってことを知っているんだ? だって、三年生となんてほとんど関わりのない俺だぞ? ……本当にどこかであったことがあるのかな? 覚えてないけどさ。
「それじゃ、俺は帰りますね。お疲れ様でした」
「お疲れ様、明日からよろしくね」
「はい」
俺は気絶している遥をお姫様抱っこをし、練習場を後にした。それから帰路の途中。
「……遥って、見た目の割には重いんだな」
と、ボソッと言ったら遥の腕が俺の首に伸びてきて……。
「誰が見た目の割には重いんだって?」
と、首を思いっきり絞められた。
「いでででででで! 遥! 離してく……痛い痛い痛い!」
絞める強さがさらに強くなり、完全に決まっている。
「よくもまぁ、僕を酷い目に遭わせてくれたわね、しかも、重いって言うなんてぇぇぇ!」
「遥! 決まっている決まっている! ギブキブ!」
俺は今現在、出せる全力で遥の腕を叩くが緩める気はさらさらないようです。どんどん、強くなります。
「(あ……ヤバ……意識が……)」
と、思ったけどすでに遅かった。プツンと糸が切れるように俺は気を失ってその場に膝から崩れ落ちた。気を失っているのにまだまだ絞め続ける遥。
「さぁ、何か言うことはないの? サト君! ……あれ?サト君?」
と、緩めたときにはすでに時は遅し。遥はその場に立ち尽くし、気絶している俺を見ていた。
「……帰ろっか」
と言い、今度は遥が俺をお姫様抱っこし、学校を後にした。その途中。
「……サト君、やっぱり軽いなぁ……なんか腹立つ」
帰り道、怒りが沸々とこみ上げてきたことは遥しか知らないことだ。
「へぇー、そんなことがあったんだねー」
その日の夜、俺達三人はいつも通り俺の部屋に集まり、楽しく過ごしていた。今は今日起きたことを知らない朱音に一から話していた。
「ねぇ、朱ちゃん! 酷いと思わない? サト君が僕のことを重いって言ったんだよ!」
「それは酷いよー、智ー、女の子に対して重いなんて言っちゃダメだよー」
「いや、そもそも遥は男だろ?」
「男じゃないですぅ、男の娘ですぅ、重いと言われてショックを受けるのは女子だけじゃないんですぅ」
と言う遥。うん、うぜぇ。
「だからと言って、意識が落ちるまで絞めることはないだろ?」
「まぁ、それは悪かったよ。……でも、意識をなくしてよかったわ、おかげで好き放題できたし」
と、意味深なことを言う遥。それを聞いた俺は背筋に悪寒が走る。
「……おい、気絶している間何をした?」
恐怖を覚えた俺は自分を抱きしめるようにした。その頃、遥は「クククッ」と怪しく笑っていた。
「僕がサト君に対してなにをしたかって? それはね……」
と、妙な間を開けながら言い始めた。
「そ、それは?」
「……特に何もしてないよ、僕はサト君にあれこれするのが好きじゃなく、反応が面白かったり、可愛かったりするからそれを見るのが好きでやっているんだよ」
……どちらにしろ俺にとって悪いことと言うことはわかった。
「……お前、あれこれするのが好きじゃないとか言ってるけど嘘だろ?」
「……」
「何故黙る!?」
遥の奴、図星だな。急に黙りやがって、いくら長い付き合いと言えども俺にあんなことやこんなことをするのは理解できないし、理解したくない。
「嫌だねぇ、あんなことやこんなことをされるのは。勘弁して欲しい」
「そんなこと言って、嫌じゃないんでしょ? 正直になりなさいな」
と、言いながらベッドの上に座っている俺の隣に遥が寄ってくる。
「嫌に決まってるんだろ? だいたい……」
俺が全て言う前に遥が割り込んできた。
「嫌々言う割りには抵抗しないんだね」
「……へ?」
なんということでしょう。先程までベッドに座っていたはずがいつの間にかベットに押し倒されているではありませんか。これはびっくり、さらに遥には腕を頭の上で抑えられ、体も動けないように押さえられています。もちろん抵抗はできません。さてどうしましょう……じゃなくてだね!
「お、おい! 離せ! 離しやがれ!」
ジタバタ抵抗するが動くことすらできない、がっちりと押さえられている。なんで、こういう時だけ遥の方が力が強いのだろうか? 俺にはよくわからん。
「うふふ……」
「お、おい、離してくれ……何をするんだ?」
「ナニをするんでしょうねー」
他人事のように本を読みながら代わりに朱音が答える。
「あ、朱音! お願い、助けて!」
「面白そうだから見といてあげるよー」
「見てないで助けてくれ! このバカ!」
ジィッとこちらを見続ける朱音、助ける気は毛頭ないようだ。
「た、頼む、やめてくれ」
「それじゃ、いただきまーす」
「俺の話を聞いてくれぇぇぇぇぇぇ」
ダメだ、聞く耳を持ってない。諦めていると遥が覆い被さってきた。
「あっ……お、お前! どこを! あっ……そこはやめ! あっ……あぁぁぁぁぁぁ~」
「……ラブラブだねー」
「……」
「ふぅ、満足満足」
満足げな笑顔を浮かべ、キラキラしているのに対し、ベッドの上で壁に顔を向け、脱力した状態で寝ている俺。そして、この光景を見て笑っている朱音。
……酷い目に会った。上半身だけ脱がされて、首筋を舐められた。多分、いかがわしい声を出してしまった。勝手に出てしまったとはいえめちゃくちゃ恥ずかしい。
「……」
「ねぇ、智ー、白くなってるよー大丈夫ー?」
「……問題ない」
今にもかき消されそうな声で答える。ダメだ、力が入らない。
「サト君、大丈夫?」
「誰のせいだと思ってんねん!」
「あー、戻ったー」
笑いながら心配されたので怒りがこみ上げ、同時に色を取り戻し、脱力感も消え失せた。
「あ、そう言えば遥、手大丈夫か?」
今日、遥に思いっきり投げた球を受けたとき泣いていたので一応、心配しておく。
「そうだよ、痛かったんだよ? まぁ、後ろに少し吹き飛ばされたからそこまで衝撃は手に来なかったけど、打ち身にはなってるよ」
「すまんな」
「本当よ、真面目に取ってたら骨折してたかもよ? 後なんか紫のオーラが見えてたし……あ、知ってる? 紫のオーラって淫……」
「おい、これ以上言うと本当にお前の左手を使い物にならなくするぞ」
俺はボールを持って構え、遥を威嚇する。今度はボールだけではなく体全体に紫のオーラを纏わせる。
「い、嫌だなぁ、本気にしないでよ。嘘だよ嘘」
「ふーん」
嘘だというので一旦、紫のオーラをしまう……が。
「今度はボールだけじゃなく体にも淫ら……痛っ!」
忠告したにもかかわらずいとも簡単に言い放ったので遥の横っ腹に五割程度の力でボールを投げた。
「あららー」
「痛い痛いよ、なんで投げるの?」
「言ったら投げるよって言ったじゃん、なのに言ったから投げたんだよ。遥がいけないの」
「むぅ……」
と、頬を膨らませ納得いかないという顔をする遥。俺はしっかりと前もって忠告したからなと心の中で思う。
「さてと、明日練習あるし、遅れた何されるかわかったもんじゃないし、寝るかね」
「わかったよ、それじゃ僕達は帰ろっか」
「そうだねー、それじゃー智、また明日ー」
「おやすみ」
「あぁ、またな」
朱音と遥は俺の家を後にした、さてとお風呂に入ってさっさと寝ますかね。
「用って何ですか?」
練習日当日、朝早く巫先輩に「用があるので朝早く来るように、遅れたら許さない」と電話で言われたので急いで練習場に向かった。ん? そもそもなんでこの人俺の電話番号知ってるんだ?
「遅れずに来たわね、うんうん、いいことよ」
「はぁ……」
「用って言うのは……はいこれ」
と、スポーツバックから何かを取り出した。
「練習着?」
学校指定の練習着。もちろん、女子生徒用である。てか、それしかないし。
「練習と練習試合ではこれを着るから忘れないようにね」
「わかりました」
「それじゃ、着替えてきなさい」
俺は着替えるために部室へ向かった。しばらくして。
「き、着替えてきました」
着替えを終え、部室から戻ったが……なんだこれすごく恥ずかしい!
「うんうん、似合ってるわ」
と、赤面している俺を見て言う巫先輩。……また一つ疑問なんだけど何でこの人は俺の服のサイズを知っているんだ? 全部丁度いいんだけど。
「どう見ても女子にしか見えないわね、これで大丈夫ね」
「はは、そうですね(試合に関しては大丈夫かと思うけど俺の心は大丈夫じゃない!)」
今の俺のカッコはセーラー服に似ている上着にスカートにスパッツ。……うん、どう見ても女子にしか見えない。うん、改めて恥ずかしい。すると、俺が恥ずかしがっていると次々と他の部員が練習場に入ってきた。
『おはようございます!』
「はい皆、おはよう。それじゃ、さっそく練習を始めるわよ」
『はい!』
と、恥ずかしがっている俺を置いていきながら練習は始まった。
「はぁ……はぁ……」
練習が始まって、早くも三時間が経った。ヤバいな、体力落ちてるな。もう疲れた。
練習メニューはまずランニング、ストレッチ、キャッチボールから始まり、これにて準備は終了、その後はランニングメニューや筋トレをこなした。ここまではまだ余裕だったんだけど、実戦練習に入ってから一気に練習はハードになった。まずはノック。アウトになるまでやり続けるというルールがあった。俺の番となり、いざやるとギリギリ捕れない、最初は手を抜いていたためそのせいだと思ったが真面目にやっても捕れなかった。十を超えた辺りで本気でやることにし、グローブの先端でギリギリ捕れた。顧問の先生も本気でやるとギリギリで捕れるように調節してやがるな。まぁ、ノックの前に巫先輩が耳打ちしてたしそのせいだと思うけど。本数が増えてくごとにどんどんと難しくなっていった。ラスト一回の時なんてボールが飛んで来てから動くと間違いなく間に合わない、予測して動かないと捕れなかった。こうして、午前中の練習は終わり、俺はすでにヘトヘトになっていた。
「くはぁー、もうダメだー」
俺は練習場の近くにある芝の上で横になっていると。
「お疲れ様、はいこれ」
そこに巫先輩が来て、スポーツドリンクを手渡した。
「ありがとうございます」
「隣失礼するわね」
と言い、寝転んでいる俺の隣に巫先輩が腰を下ろす。
「どう? 久々の野球は?」
「そうですねぇ、まぁまぁって感じですかね。……てか、なんで知っているんですか? 久々って」
「……なんとなくよ」
「そ、そうですか」
巫先輩、なんか怒ってる? 俺、怒らせるようなこと言ったか?
「それじゃ、私は行くわね。お昼しっかりと食べるのよ」
「あ、はい」
巫先輩は立ち上がり、部室の方へ歩いて行った。
「……まぁ、いっか。さて飯を食べるかねー」
俺は鞄から中くらいのおにぎり二つを出して、食べ始めた。午後の練習は一時からだ。
「はぁ……はぁ……ゴホッ! ゴホゴホッ!」
時刻は午後六時、練習は終わり、グラウンド整備を終えたところである。俺はベンチの前で膝をついていた。
「はぁ……はぁ……きつい……きつすぎる」
午前中でもハードだったのに午後はさらにハードになった。これは体力作りした方がいいなぁ。なんて思っていると巫先輩が俺の方へ向かってきた。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様です……」
「疲れ果ててるわね」
「えぇ、久しぶりなので」
「そう、ストレッチしてあげるから座りなさい」
「あ、ありがとうございます」
巫先輩が俺の背中をぐいぐいと押しながら。
「こんなんでへばってどうするの? 体力が落ちたんじゃない?」
「そうですね、かなり落ちたかと」
「日頃動いてないからよ、ランキングくらいしなさいよ」
「しばらくはやろうかなって考えています」
「そう、頑張って……ね!」
「痛っ!」
急に思いっきりぐいっと押されたので体に痛みが走る。
「はい、ストレッチ終わり、早く帰りなさいよ、私はこれで帰るから」
と言い、巫先輩は練習場を後にした。
「あ、お疲れ様です……さてと着替えて帰るかな」
俺は更衣室へ向かい、ぱぱっと着替えて更衣室を出た。
「今日の晩飯どうしようかなぁ」
と、考え事をしながら体力作りも兼ねて走って帰った。
「さてと、頑張ってやりますかな」
今日は待ち待った練習試合の日だ。一週間、壮絶な練習を乗り越え、短い間だけど体力作りして少しは体力が増えた気がする。それでも、練習はきつかった。流石は全国で優勝する程の実力を持つ部活だよな物凄い練習量だった、あれだけの練習量だから自然と実力も着いていくってことなんだね。まぁ、その中でも何人かずば抜けた人はいるわけで……。
「……」
黙々と準備運動をやっている巫先輩。あの人は正真正銘の化け物だ。身体能力も技術などありとあらゆる野球に関する能力が他の生徒と一回りも二回りも違う。世界トップレベルと言っても過言ではない。もう、早いわ飛ばすわ巧いわ、あの人が相手だったらすぐさま白旗をあげるね。実際にあげたけど……。うん、バカスカ打たれて、ビシバシ捕られました。もう二度と相手はごめんだ。でも、味方ならとても頼もしい。
「さて、そろそろ試合ですかね」
整列して待っていると審判から集合がかかった。
「これから練習試合を始めます、礼!」
『よろしくお願いします!』
挨拶の後、後攻の俺達は守備へ散らばり定位置に着く。俺はピッチャーで三番だ、しっかりと活躍しようと決意を固めているとキャッチャーの巫先輩がマウンドに近づいてきた。
「まずは一回ね、しっかりと抑えていいスタートダッシュを決めるわよ」
「わかりました」
「うん、いい心構えよ」
と言いながら俺の胸をミットでトンと叩く。定位置に戻る前に。
「期待してるわよ」
と声を掛けて。俺は単純だから期待されるとさらに頑張れる。
「プレイ!」
審判の号令がかかる。さぁ、一球目、巫先輩はインコース低めを要求している。球種はストレートか、よし。振りかぶって、投げるとボールはミットに物凄いスピードで一直線に向かってい、ドゴォンッと大きな音を立ててミットに収まる。
「ス、ストライク!」
審判は驚きながらストライクを宣告する。バックスクリーンには157キロを表示している。これには相手チームももちろん、観戦に来ている生徒や地域の人まで驚いたようで一時の沈黙を貫いている。巫先輩から俺の元にボールが戻ると急にざわざわし始める。驚いている人達をよそに淡々と次のボールを要求する巫先輩。次は……さっきと同じコースにスプリット、ストレートに近い球速で鋭く落ちる球種を選択した。二球目振りかぶって投げる。ボールはバットに当たる瞬間、物凄いスピードで落ち、バットは空を切る。
「ストライク!」
ツーストライクが宣告される。
さて、三球目は……アウトコース低めにチェンジアップね、ストレートと球速差が大きい球種で緩急で打ち取る球種である。三球目を投げ、打者は案の定、緩急を即座に対応できず空振り、三振、バッターアウト。
その後、二人目、三人目も三振で抑えて、この回は完璧に抑えた。
「ナイスピッチング、いい出だしね」
「ありがとうございます」
「このあと打席回ってくるから準備しておいてね」
「わかってますって」
俺はヘルメットをかぶり、バットを持ってベンチの前で自分の打席を待っている。
一番打者がサードゴロに倒れ、二番打者はレフトフライに倒れ、俺の番が回ってきた。
「お願いします」
と、ヘルメットのつばを持ち軽く会釈し、バッターボックスに入る。
「(さてと、どう来るかな?)」
前の二人に対しての投球を見たところ、相手投手はコントロールと変化球の多さ、変化量、キレを武器にしている技巧派の投手のようだ。まずは様子見、一球目は見送ろう。
「ストライク!」
一球目はカーブか大きく斜めに変化するボールか、これは予想より大きい変化だな、厄介な球だ。相手投手はテンポよく次のボールを投げるために振りかぶった。
「ボール!」
二球目はスライダーか、横にスライドするように変化する球種、これはカーブに比べて狙いやすいな。さっきは誘い球だったし、次は入れてくるか?
相手投手、三球目を投げた!
「(ドンピシャ!)」
三球目は予想通りの球種、スライダーでコースの読みも完璧だ。完璧に捉えた……と思ったが。
「ファール!」
「(お、マジか)」
コースの読みは完璧だったのに球種が違った。球種はカーブとスライダーの間の変化球、スラーブと呼ばれる球種であった。
「(……これは次何来るかわからんなぁ)」
ワンボールツーストライクの場面、俺だったら一度誘い球を入れるがもしかしらきわどいコースを攻めてくるかもな。
四球目、振りかぶって……投げた!
「(待ってました!)」
アウトコース低めのきわどいコースにストレート、捉えた! ……と思ったが
「うげぇ!」
カキンッ!といい金属音ではなく、コツンと鈍い音が鳴った。ボールはサードに弱々しく転がっていく、相手サードがファーストに投げ、アウト。
「(やられた)」
さっきの球、ストレートじゃなくてツーシームかよ。バッターの手前で少し変化する球種。芯を外して、打ち取るには最適だ。
「ツーシームまで持ってるのかあの投手、レベル高いな」
「ドンマイ、次次!」
そうだ、ヒットが打てなくても切り替えなきゃな。ふとバッターボックスに目を向けると次は巫先輩の打席だ。初っ端、二連続ボール。やはり、警戒されてるな。次もボールかな、と思っていた矢先、ガギンッ! とバットから鳴るはずのない音が鳴り響く。ボールはあっという間に場外へ吹っ飛んでいった。ホームランだ。……いとも簡単にホームラン打つなぁ、あの人。そんなことを思っているとダイヤモンドを一周し、ベンチに戻ってきた巫先輩とハイタッチ。まずは一点、先制点は俺達がもらった。
試合は進み、五回まで進んだ。スコアは2対0。今のところノーヒットで抑えている。打撃はノーヒットに抑えられています。第二打席は三振でした。ギリギリの所に投げられたもんだ、クサいところは嫌いである。前の打席を振り返っていると巫先輩がマウンドに駆け寄ってきた。
「智、いい調子じゃねぇか。オレもリードしやすいぜ、このまま流れに乗ってけよ」
と、声を掛けられた。……んん!? え? 誰ですか? え? えっ!? と戸惑い、キョトンとしていると……。
「ん? どうしたんだよ、お前」
「……えらい話し方変わってますね」
「はぁ? お前何言って……あっ……」
やってしまったみたいな顔をしている巫先輩。すると「コホン」と咳払いをし。
「ま、まぁ、いい調子よ、このまま続けてね、熾座君」
といい、足早に定位置に帰って行った。
「……何だったんだ?」
疑問に思う俺だったが、考えてもわかるはずがないので気にしない気にしない。……でも、どっかで聞いたことある口調だなぁ、どこたっけ? まっいっか、今は試合に集中……しようと思ったのだが、やはり考え事をしてしまったのがいけなかったか。やってしまった。ワンアウト、一、二塁。ノーヒットで抑えていたのに一気に失点のピンチ。しかし、それでも臆することなく強気のリードをする巫先輩。一球目はインコース高めにスライダー、ストライク。二球目はインコース低めにストレート、ファール。そして三球目、アウトコース低めにスプリット。相手は引っかけ、セカンドゴロ、ダブルプレー。失点のピンチを乗り越えた。
「あっぶねぇー、あーよかった」
と、ホッとしていると次が自分の打順だったことを思い出し、急いで準備してバッターボックスへ。
「お願いします」
つばを持ち軽く会釈してバッターボックスに入る。
「(初球は見るか)」
俺に対し、このピッチャーは初球変化球が多く、コースはインコースがほとんど、キャッチャーが計算を建ててリードしているなら、そろそろ逆……アウトコースのストレートが来そうだな。と予測していると相手ピッチャーが振りかぶって投げた。
「(ドンピシャ!)」
コース、球種と共に予想通りのアウトコースのストレート。俺は思いっきり踏み込み、バットを振る。打球はレフトの頭上を越え、フェンスに当たる。物凄い速さでベースを駆け回り、三塁で止まった。スリーベースヒットとなった。
「よしよし、初ヒット!」
その後、巫先輩がヒットを打ち、俺はホームに生還した。まだまだ試合は続く。
『ありがとうございました!』
試合は終了し、結果は6対0で俺達の勝ち。俺の成績は5打数2安打1三振。投球は9回3被安打12奪三振無失点。かなりの好成績を納めた。
「ふぅー、終わったー、結構活躍できたぞ」
助っ人として申し分ない活躍ぶりだったな。……暑い自画自賛だけど。
「お疲れ様、今日はありがと」
と、巫先輩が俺の隣に腰を下ろし、感謝の言葉を述べた。
「お疲れ様でした」
「大活躍だったわね、流石だわ」
「ありがとうございます、ちょっとできすぎな感じもしますけどね」
「それでいいのよ、活躍でしたならそれに越したことはないし」
なんて言ってるけどこの人は5打数4安打4打点2本塁打。えげつない活躍ぶりである。
「そう言う巫先輩もすごい成績でしたね」
「そうね、今日は調子がよかったらいつもよりボールがよく見えたのよ」
「流石ですね」
「コンディションを整えてこそのスポーツなのよ」
と、お互いの成績やコンディションの整え方など試合が終わってから結構話し込んでしまい気づけば他の部員は帰ってしまい、二人だけになっていた。
「ねぇ、熾座君」
「はい、何ですか?」
「本当に私のことを覚えていないの?」
と、助っ人として連れて行かれた時に「久しぶり」と言われた時の話を再びする巫先輩。
「覚えてないも何も一週間前が初対面ですよ、先輩のような長身の先輩と知り合いでしたら覚えていますもん」
と、キッパリと言うと巫先輩は下を向いて、震えていた。
「……しろ……」
「え? 何か言いました?」
「オレと一打席勝負をしろ! 寝ぼけたことを言っているお前にお灸を据えてやる!」
と、いきなり立ち上がり大声で言う。……かなりご立腹らしい。
「え?」
「わかってるよな!? お前に拒否権はない! わかったらさっさとバッターボックスにいけ!」
「は、はい!(めちゃくちゃ怒ってる、怖い! めちゃくちゃ怖い! なんか強大なオーラが出てる何なのあれ!)」
もちろん、逆らえるわけもなく、大人しくバッターボックスに立つことに……
「……」
「行くぞ! 覚悟しな!」
と、言いながら投球動作に入った巫先輩。振りかぶって、投げた!
巫先輩から放たれたボールは尋常ではないスピードで俺に向かってくる。……165以上は出てるだろあれ、と思いながら見逃そうとするとボールをよく見ると向かっているのはホームベースではなく、俺自身に向かって来るではありませんか。もちろん避けることもできず、ボールは俺の太ももに当たった。
「ッッ! 痛ってぇぇぇぇぇぇっ!」
当たったボールは俺の体に当たってもなお、スピンしていた。俺はその場に倒れ、足を押さえて転がっていた。
「どうした! さっさと立ちやがれ! この根性なしが!」
「根性なし」この言葉を聞いた瞬間、忘れていた昔の記憶が蘇る。頭の中では幼い時、一人の少女と遊んだ記憶が映像のように流れていた。
「乙葉……姉さん?」
一緒に遊んでいた少女の名前を呼ぶ、その人物は今、マウンドに立っている巫先輩……いや、乙葉姉さんである。
「やっと、思い出しやがったか。まぁ、無理もねぇか疎遠になって十年以上経ってたからな」
と、呆れ顔で言う乙葉姉さん。
巫 乙香姉さん、俺の従姉。一人称はオレ。男勝りな性格で面倒見のいい姉御肌の持ち主。俺も幼い頃面倒を見てもらった。馬が合うのか知らないけどよく遊んだ記憶がある。
「全くひでぇ奴だ、あんだけ面倒見てやったのにオレのことを忘れるなんてな」
「ははは、ごめん」
何で忘れたかって? 幼い頃、乙香姉さんは俺にとって畏怖の象徴みたいなもんだったからな。理解できるか? まだ小さい頃に縄で縛られて、縄の先端に火を付け、脱出してみろとか言うんだよ? 頭おかしいよ。他にもヤバイ遊びがあり、覚えていなかったのはその地獄を忘れたいと無意識に思っていたかもしれない。もちろん、本人にそんなことを言ったら、殺されるだろうね。
「あの痛さで思い出したんだよ。昔、ピッチャーやりたいと言って、練習に付き合わされて、何度デットボールを喰らったことやら。デットボール製造マシーンの乙香姉さん」
「失礼だな、お前」
「だって、本当のことじゃん」
と、言うと乙香姉さんの鉄拳が頭に落ちた。
「ッッ!」
「世の中には言っていいことと悪いことがあるんだよ」
「す、すいません」
懐かしいなぁ、幼い頃、その日俺がピッチャーで大活躍してそれを見た乙香姉さんが「オレもピッチャーやりたい!」と言い無理矢理ピッチャー練習に付き合わされた。今では精密機械並に良いんだけれどその頃は異常なほどコントロールが悪かった。そのお陰で何回もボールを体に当てられた。もう、どれくらい当てられたか覚えてない。五十回は軽く越えていると思う。ちなみにその練習に付き合って俺の練習になったことはなかった。あるとしたら痛みに強くなる練習かもしれない。お陰で……とは言いたくないけど痛みには強くなった。
「いやぁ、それにしても元気そうで何よりだよ」
「まぁ、オレはそう簡単に体調を崩したりしねぇからな。智の方は衰えたな、初日の練習、あれくらいで体力切れとは情けねぇな、もっと体力付けろ」
「……でも、今日完封したんだからいいじゃん。それに助っ人をやるってことになってから少しは体力作りしたからね」
「まぁ、完封したことは褒めてやるよ。でも、それとこれは別だ」
「……そうですか」
「なんだ? その不満そうな顔は」
「な、なな、何でもないよ」
すると、乙香姉さんは立ち上がり、俺の方を向いた。
「さて、オレはそろそろ帰るぜ。今日はありがとな、もしかしたらまた頼むかもしれねぇがまたそん時は頼むわ」
「うん、考えておくよ」
「んじゃ、またな」
と、言いグラウンドを後にした。
「……」
一人になった俺は今日の試合のことを思い出していた。
「楽しかったな。……俺も何か部活、始めようかな。……まぁ、考えておくか」
やはり、体を動かすことは楽しい。中学の頃は部活をやっていたけど高校では何もやっていない。まぁ、今のままでもいいけどね。
「……俺も帰るか」
俺はベンチから立ち上がり、乙香姉さんに体力作りをしろと言われたので走って家に帰って行った。
「やっぱり、無理して走って帰ったのがいけなかったか」
俺は妙な体質で体育とかはいくら激しく動いても筋肉痛にはならないんだけどかなりの長い時間の運動を何日も連続でやり、試合とか練習よりも短い運動をやると次の日には極度の筋肉痛になってしまう。何を言ってるか意味がわからないだって? 俺にもわからん。まぁ、こうなってしまったら立ち上がることはできるがオンボロのロボットみたいな動きになる。まぁ、大人しくしてた方がいいのかもね。
「……何もやることないし、寝よっかな」
動くことができないわけではないが動くの辛いし、夕飯の時間になるまで寝ることした。明日、学校なのに動けなかったら嫌だからね。超回復で直してやる。寝る前に俺は無意識にボソッとつぶやいた。
「……何か変わる気がする」
二年になって、ミヤ姉と雛、家族と同じ学校になって、従姉である乙香姉さんとの再会。そして、遥と朱音達と過ごす変わらぬ日常。楽しいことばかりだな。
……だけど、この時俺は予想だにしてなかった。楽しくも変わらぬ日常が大きく変わっていくことになるとは……。
……話は別だけど、練習試合での投球を見た生徒達が翌日、俺の元へ集まり、質問攻めにされるのも俺が知るよしもないことである。
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