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翌朝。庭で素振りをしていると、室内からどたばたと音がして、縁の雨戸がガタンと開いた。ジェイムズが焦った様子でこちらを見下ろしている。
「おはよう⋯⋯どうした、そんな慌てた顔で」
「隣にいらっしゃらないから⋯⋯勝手に出掛けてしまわれたかと⋯⋯」
私は本当に信用されていないらしい。外から雨戸を開けてゆくと、一緒に動き出す姿が何とも愛らしい。
「貴方に黙って私が何処に行くと思う?」
「港へ⋯⋯⋯」
「やきもちは愛おしいけれど、少しは私の事を信じて欲しいものだ」
縁側に腰掛け手を差し出すと、滑るように胸に飛び込んできた銀の髪。こんなに愛おしいと思っていても、不安を取り除いてやれないのは残念だ。桐吾も、機嫌よくしているなーとこちらが気を抜くと、直ぐに文句ばかりを言った。思えば私と添うて『でん』と構えていてくれたのは和鶴だけか⋯⋯これはやはり私の性質に問題があるのだろうな。
「⋯⋯くしゅっ」
「ああ!風邪を引いてしまう!中に入って窓を閉めておいで」
「旦那様も。こんな寒い中、早くから剣を振らずとも」
「体がだらしなくなった気がしてね⋯⋯」
ジェイムズは私の腹を撫で、「まだ大丈夫です」と笑った。
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