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「午前中は山千組の親分さんにご面会」
「うむ」
「やはり先日のあの子が気になると」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
弥助の次男、岳は、大山組の人材派遣部門である山千組の頭として多くの人夫を動かしている。昔で言う口入屋、請負師だが、鉄道や道路と言った建設関係以外にも、細々とした紹介もこなしている。弥助が拾った朔夜を東鷹病院に派遣したのもおそらく岳だろう。
廓上がりの者は、女子ならば嫁の貰い手があったり、働き口も探す手立てはあると言うが、男子だと厳しいものになるらしい。年季が開けても廓の近くで飲み屋を開いたり、或いは金剛として廓に残ったり⋯⋯生きる道はそう多くないのだ。山千組は宿も飯場も備えている事だし、廓に舞い戻るより幾分はいいのかも知れない。
「ジェイムズ、隣に座って」
「嫌です」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
揺れる馬車で体と同じように心臓がごとごと跳ねる⋯⋯そんなに不機嫌になられても⋯⋯置いて行けばもっと怒るのだろうし⋯⋯
「貴方様のどなたにもお優しい所は美徳なのでしょうが、殊更綺麗なもの、可愛いものへの執着は、私にとって毒です毒」
酷い言われようだ。
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