Green Eyed Monster

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  「東鷹病院で下働きしてる “朔夜” ⋯⋯井作(いさく)の事ですかねぇ」  岳はジェイムズをちらりと見るが。たとえどんな話が飛び出して来ようとも、離席などさせようものなら後でどのように拗ねる事か⋯⋯どうせ洗いざらい白状しても、あらぬ疑いを掛けられる事は間違いない。それならここで一緒に、最初から最後まで話を聞いて貰う方がまだましだ⋯⋯  私の斜向かいで、出された珈琲を飲む前から苦々しく睨むジェイムズを見ると心臓が縮む。お願いだからこの老体を労っておくれ⋯⋯  察しのいい岳は、少し目を泳がせた後で小さく咳払いした。 「この年明けに志月から泣きつかれたんですよ。雑用係が家の事情で急に辞めてしまって困ってるって」 「では彼は志月の研究室に?」 「掃除やらお遣いやら、なかなか気が効くと評判みたいです」  伊織の忘れ形見、志月と伊吹の里親は弥助だが、実際に面倒を見ていたのはこの岳だ。優しく厳しく、とても愛情を掛けて育てて貰ったと二人から聞いた。嘗ての桐吾は、東京から戻るたびに岳に預けた甥達に会いに行っていたのだ。伊吹は物心ついた頃から『うちには父親がたくさんいる』と受け止めていたと言う。仕事で留守がちな父。母親のように一切の面倒を見て慈しんでくれる父。桐吾と岳にとって、志月と伊吹は二人の子も同然だったのだろう。  
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