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「井作はちょうど職にあぶれてましたから」
「あぶれる?仕事ならいくらでもあるだろう」
「仕事はあってもああ言った子はねぇ⋯⋯しかも廓上がりじゃ持ってる雰囲気ってもんが違う。あれは一足飛びに消せるもんじゃありません。荷役にしろ人夫にしろ、血気盛んな野郎共の中に置くのは狼の群れん中に羊を放り込むようなもんです。兄貴の所でも持て余すってんで、親父の身の回りの世話やらここの雑用やらをさせてたんですがねぇ」
確かにあの線の細さでは⋯⋯昔のジェイムズと朔夜が重なる。しかも屈強な男達の中では身の置き場により苦労するだろう。風紀が乱れる事も十二分に考えられるし、喜弥太が持て余すのも致し方ない。
ジェイムズは⋯⋯彼から自分と同じ匂いがすると言った。それは男娼だった過去ではなく、男子として生まれながら男子としては生き辛い、そんな悲哀を感じ取っての事だったのかも知れない。
だがやはり解せない。そんな事は弥助なら端からようく解っていただろうに。そこに情を掛け始めればキリがない事も。だからこそ、見て見ぬ振りが出来るのが弥助と言う男だった筈なのに。
岳はまたジェイムズをちらりと見て、小さく息を吐いた。
「井作はねぇ。廓を出たら旦那様に会いに行きたいと、その一心で親父の居所を探し出したんですよ」
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