Green Eyed Monster

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   朔夜は守り袋を二つとも預けており、年季明けはやはり弥助が迎えに行った。 『故郷(くに)は駿河だったな。船で行くなら港まで、汽車で行くなら駅まで送ってやるが、お前さんはどうする』 『主さんに会わせて』 『そりゃあ出来ねえ相談だ』 『主さんに会わせて』  余りに頑なに様子に、弥助は朔夜を新地の最寄りの駅まで送り届け、後ろ髪を引かれながらも逃げるように帰って来たのだと言う。 「あの親父が、まるで捨て子をした気分だとしょげてました。旦那様に手引きした最後の色子が、まさかそんな手間を掛けさせるとは思ってもいなかったんでしょうねぇ。三途の川の渡り賃代わりに出した情けが裏目に出たと」 「いや⋯⋯それでも弥助の行いは尊いものだ」  黙って聞いていたジェイムズだったが、急にこっちを睨んできた。 「何を識たり顔で仰ってるんです。結局のところ、親分さんは貴方の中途半端な施しの尻拭いに奔走してらしたんじゃありませんか。何です御守りって」  岳は場を取り持とうと「お大尽遊びなんてそんなもんですよ」と取り成してくれるのだが、ジェイムズは視点がどうにも違うのだ。 「娼伎は体を張って生きてるんです。買われた客に添い寝だけで許されて、その上更に分不相応な小遣いまで貰って。地獄の徒花が天国を見せられて、その後また地獄へ戻れば辛さがひと塩滲みるでしょう。貴方はそんな気持ちを少しでも考えた事がお有りなんですか」  
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