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ぐうの音も出ない私を尻目に、ジェイムズは岳に「続きをどうぞ」と迫った。岳は眉根に力を込めてコーヒーをぐいっと飲み干すと、所在なさげにまた一つ咳払いした。巻き込んですまない⋯⋯
「まぁ⋯⋯そんなこんなで後味悪くも終わった話と聞かされてたんですが⋯⋯あの井作は “大山の親分” って言葉だけを頼りに、新地から三日掛けてこの港まで歩いて来ちまったんです」
「え!」
たった一晩の添い寝の相手。
私の手掛かりは弥助だけ。
塩町の茶屋からここまで二頭立ての馬車でも数時間、私ですら旅の気分で赴いていた。新地からなら更に掛かるものを人伝てに探しながら歩いて⋯⋯⋯
「親父が揃えてやった服も薄汚れて、草履なんかはぼろぼろで、飯も食わずに野宿して。よく襲われなかったもんです」
「金は遣わずに⋯⋯?」
「親父に全部渡して、それで旦那様に一目合わせて貰おうと考えたようで。全く⋯⋯十やそこらから廓の中でしか生きて来なかった子がよくもまぁと、親父もすっかり絆されちまって」
絆される⋯⋯それは絆される⋯⋯!なんと健気な⋯⋯!
感動していたら、ジェイムズがまた刺し貫きそうにこっちを睨んでいる。ソファから乗り出し掛けた体をまたそろそろと背凭れに預け、ゆっくりゆっくり息を吐く。ああ怖い⋯⋯!やはり岳と二人で話すべきだったか⋯⋯!私の選択はとんでもない間違いを引き起こしたか⋯⋯!
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