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岳はジェイムズと私を交互に見て、くくっと笑った。
「全く旦那様は罪深い」
これまで何度『罪深い』と言われて来ただろう。人の心の機微に疎いと自覚があるゆえに、精一杯、何とか汲み取れぬものかと腐心しているつもりなんだ。これでも。
「私はやはり何か悪い事をしているのだろうか⋯⋯」
「いえ、言葉のあやってやつです。私なんかは寧ろ気の毒に思いますよ。旦那様はいつも世の為人の為、忙しなく勤しんでらっしゃるだけですのにねぇ」
世の為人の為。そう在りたいと願ってはいるが、やはり道のりは険しい。何しろ愛おしい人に幸せを与える事すら儘ならぬ様子だしなぁ。ジェイムズはもう一度鼻を擤んで、次は自分のチーフで目元を拭った。
「貴方のお優しさは毒だと沢良木様も仰っておられました。用法・容量をよく守らないと中ってしまうからよくよく気をつけるようにと」
岳は遂に堪らなくなったのか、大口を開けて笑い出した。この話はそんなに可笑しいのか⋯⋯私は軽く戦慄しているのだが。
「ああ失礼。沢良木の旦那がどんな顔でフォール先生にそんな事を言い含めたかと想像すると可笑しくって」
「それはもうあの三角の目で」
ジェイムズが大きな目の端を指できっと吊り上げて見せると、岳はもっと笑った。
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