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人の心は複雑過ぎて、私はいつも臆病風に吹かれてしまう。
岳の心のうちにあるものにも、思いを馳せては逡巡する。
この岳と、いつかは腹を割って話せる時が来るだろうか。
私の知らない桐吾の顔を⋯⋯思い出を、いつかその口から教えて貰える時が。
私にとっては岳も掛け替えのない、大切な存在だと思う。
意外な事に、ジェイムズは一日も早く朔夜と会ってやるべきだと言った。
「熱でもあるのかね⋯⋯」
「誰にです。夢のような初恋はさっさと終わらせた方が前向きに生きられます。ねえ親分さん」
「まぁ⋯⋯そりゃそうですが、余計に火を着けるって事も有り得ませんかねぇ⋯⋯」
「その時はその時。裏でこそこそされるより、真っ向から勝負を受けて立つのが男子と言うものにございましょう」
誰と誰が真っ向勝負をするんだろうか⋯⋯⋯⋯⋯
岳は腹を抱えてヒーヒーと笑い、「前途多難でございましょうが頑張ってください」と他人事のようだった。
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