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山千組の大きな窓からは海が見える。対岸の居留地に渡る橋には人や馬車が往来し、この町はまこと国際色豊かだと思う。
「間もなく居留地が返還されるんですねぇ⋯⋯」
「建物は兎も角、政府は外国人の国内での土地所有を認めていない⋯⋯また一波乱起きそうだ」
「何が起きても、町は守ってみせますよ」
「頼りにしているよ。私も商会も、人々もみな」
右手を差し出すと、岳はその手を強く握り返してくれた。ついでに引き寄せて頬を合わせると、もしや慣れていないのか岳は真っ赤になった。
「親愛のしるしだ」
「ここは日本ですよ⋯⋯」
「でも解り易いだろう?人肌は言葉よりずっと饒舌だ」
『旦那様のお優しさは確かに毒ですねぇ』と苦笑いする岳に見送られ、馬車で港を後にする。ジェイムズは静かに窓の外を眺め、やがて北に座った丹羽の山を見上げた。
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