Green Eyed Monster

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   港のレストランで夕食を共にし、別邸へと向かう。ジェイムズはやはり窓から、暗い海を眺めている。島影に灯台の明かりが回っている。 「三十年ほど前⋯⋯まだ私が城主だった頃、あの島とこの陸の間に遊郭を浮かべた事がある」 「海に⋯⋯遊郭を?」 「その頃は世の中が大変な時期でね。国内で内乱が幾つも起き、とても殺伐とした時代だった。私は混沌に乗じて大急ぎで事業を推し進め、多くの人夫達をこの町に引き入れた」  人が集まれば禍いも集まる。まして世情は不穏そのもの。民の暮らしが侵されないよう、人の欲と言うものをあの海の上で散らして貰うよう、猥雑なものを全て歓楽船に詰め込み、引き受けさせたのだ。 「船には多くの娼妓がいた。陸から見ると夜の歓楽船は赤い提灯に彩られて煌びやかだったが⋯⋯中では様々な悲哀があったろうと思うと今も胸が痛い」  人を守りたいがゆえに人を踏み躙る。表と裏。光と影。この世を生きるは儘ならない。 「皆さま口々に仰います。貴方様は理想が高過ぎると。程々になさらないと寿命を縮めてしまいますよ」 「程々に⋯⋯⋯」 「ええ。それに貴方様の理想に近付こうとすればする程私達の悩みも増えます。叶えられない己に嫌気が差します。ですから貴方様は目を半分だけ開けるくらいでちょうどいいんです。それが私達の為です」  
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