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ゆるゆると温もりを分け合っていると、首筋に鼻先を埋めていたジェイムズがぼそぼそと呟いた。
「もし私が先立つような事があれば、私もやはり、井作さんのように直向きな方に貴方を託してゆきたいと思うのかも知れません⋯⋯」
「何を縁起でもない事を」
顔を覗き込むと、ジェイムズは『何かおかしな事を言ったか』と言う表情で、ぱちぱちと瞬きした。
「明日の事など解りませんし」
「いいや解る!貴方が私より先になどあってはならない!貴方は私よりうんと若いのだし、私が先に逝くのが順番だ!」
─────私はもう絶対に、愛する者を私より先に死なせない。失わない。
如何に臆病な私でも、それだけは譲れない。固く固く固く、決して譲れないものだ。
「怒らないで⋯⋯」
「怒ってなどいない、貴方があんまりな事を言うから⋯⋯!」
ほかの何を譲っても、そこだけは、そこだけは。
「泣かないでっ」
「貴方が悪いんだっ」
自分でも何が起きたかと思うほど、童のように泣いた。泣き虫は元々だが、こんなにしゃくり上げて泣く事があるものなのかと驚くほど。ジェイムズは必死でよしよしと髪を撫でるけれど、結局私は泣き止まぬまま眠ったらしかった。
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