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本宅では昨年生まれた和喜とエマの娘、杏珠がはいはいで動き回るようになっている。和喜の心配を余所に安産だったエマは、母となって益々美しくなったように思う。
「昨夜はお義父様もジェイもお戻りではありませんでしたから、杏珠が随分愚図ってしまったのですよ」
「それはすまなかった。杏珠、じじに抱っこさせておくれー」
最初は、自分の幼名と同じ響きを持つ孫娘を呼ぶのを躊躇ったものだ。私は自分の名が好きではなかったゆえ尚更。和喜は私の幼名など知らぬ筈なのに⋯⋯まぁ、これも縁だな。
抱き上げた小さな体はとても軽く、碧い瞳と綿のようにふわふわした巻き毛が大変に愛くるしい。和喜も毎週末に京都から戻って来ては、愛妻に似た愛娘にデレデレしている。ジェイムズも『姪』と言うものがこんなに可愛いと思わなかったと顔を綻ばせていた。
「貴方もエマも、きっとこんな美しい赤子だったのだろうね」
「エマはそうでしたが私はどうでしょう⋯⋯」
「疑うまでもなくそうだ。絶対にそうだ」
「ではそういう事に⋯⋯」
アンジュとはフランス語で天使。和喜とエマのもとに降りてきて、家族にまで幸せを齎してくれる天使。この美しい子にぴったりの名前だ。
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