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桜の隧道の中ほどに敷き詰められた毛氈は二箇所。ひとつは酒宴用でもうひとつはお孫様を含めたご家族用。衝立を設え玩具を並べ、間違っても林の中に転げ落ちないように注意を払って。
「じじ!おうまさんごっこー」
「よしよし」
揺れる木漏れ日の中、お孫様達と戯れる旦那様はまるで童のよう。ついさっきまで散々乱れていたくせに、すっかり『じじ』のお顔になって微笑ましいけれど。腰……大丈夫かなぁ。
「ジェイ?」
「ああ、エマ、寒くない?」
「ちっとも!いいお天気で良かった」
それでも冷やしてはいけないから、旦那様から頂いたお気に入りの外套を膝に掛けてあげると、エマはそっと寄り添って来る。妻となっても母となっても妹は妹で、やっぱり一番に守ってあげたい。
「杏珠の母と伯父は絵から抜け出たように美しいねぇ。杏珠も大きくなったらきっと美人になるねぇ」
和喜様は相変わらずだ。日頃から旦那様が頭を痛めておられるけれど、帰って来られる度に奇妙なつけ髭が増えている気がする……どこで売ってるんだろう。
そして、そうこうしているうちに来た……遂に来た……桜舞い散る坂道を、息を弾ませ登って来る……!
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