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「大山の親分さんに拾われた京言葉の残る可愛い子……新地の娼伎だった子でしょう」
「よく解るね………」
「私と同じ匂いがしましたから」
ああ……!やはり怒っている……!いや、拗ねているのか。私に公然と飛びついてくるなど今や孫達のみ。この人ですら夜に二人きりの時、それもたまーにの事。酔っているとか。だが自分を卑下するのは良くない。
「ジェイムズ。貴方からもあの子からも娼伎の匂いなどしない」
「……………」
「過去などより、今を懸命に生きる事こそが尊いんだよ」
「………はい」
思いも懸けなかった再会だが、弥助め。廓上がりの青年に情を移すなど、あの者らしくない事を。近日中にでも話を聞かなければ。
「今、親分さんから事情を聞こうとお考えでしょう」
「……………」
「都合が悪くなると直ぐに黙って遣り過ごそうとなさる……」
別に都合など悪くない。ただ、貴方の眉間の皺を見たくないだけだ。
窓の外を眺めるでもなく眺め、夕闇の迫る町に笙寛寺の鐘が響くのを遠く聞く。五時……少しずつ陽が長くなって来たがやはりまだまだ冷える。今宵は鍋でもつつきたいなー。
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