76人が本棚に入れています
本棚に追加
視線を感じてふと上座を見ると、旦那様と井作が並んでこっちを見ている。ちょっと目を離したうちにあんなに距離を詰めて……!!油断も隙もないっ!
腰を上げた途端、三原様に呼ばれた。三原様は岳親分と随分親密に話し込んでいらしたけれど。
「立ち働いてばかりいては折角の馳走にありつけまい。其方もここに座りなさい」
「お邪魔させて頂いて宜しいのですか?」
「岳と思い出話をしていただけだ。ほら、この含め煮などとても酒に合う」
三原様は小皿に取り分けた料理と、新しい箸を差し出して下さる。怖いお顔をなさっていても、いつもお優しい。
「市内で評判の料亭から膳を取り寄せましたから。外国人でも舌鼓を打って、とても喜ばれているそうにございます」
「其方は本当に、旦那様の為によく働いてくれる。感謝ばかりだ」
「勿体のうございます」
上座が気になって仕方ない……が……!これもお勤め。旦那様の為にお客人を持て成す事こそが、今、俺が一番に為すべき仕事也り……!
「その昔、旦那様と桐吾殿と三人、この道を馬で駆け下りて行ったものだ。坊主頭の時はすわ山賊の襲撃かと恐れられたりな」
「坊主頭!お城が在った頃にございますか?」
最初のコメントを投稿しよう!