嫉妬深くて何が悪い。

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  「前髪を落としてようやっと一人前の侍らしく髷を結えたのに、西洋にかぶれた政府が断髪令など出したのだ。散切り頭の落武者の如き見苦しさに、三人揃って剃髪寸前まで頭を丸めたのだが、町では不評だし、坂下殿からは髪が伸びるまで謹慎だとそれはもう叱られてな」 「私ども町人は総髪の者が多かったんでそこの苦労は知りませんが、城の要の御三方が世を憂いて出家でもなされたかと、みんな大慌てだったんですよ」  この方達の昔話を聞くのは大好きだ。御一新前後の動乱期、民の無事平穏を守る為に奔走した旦那様……最後の侍でいらっしゃった皆々様の忠義…… 「殿の月兎(つきと)、桐吾殿の雪兎(ゆきと)、そして私の栗毛、花兎(かのと)。西洋馬の颯や颪に負けるとも劣らぬ、端正で賢い馬達だった……」 「三原様の思い出とは、さてはお馬の事なのですね」  つい笑ってしまうと、岳親分も目を細めて笑った。皆様はお年も近い幼馴染み。旦那様との何十年分の思い出を共有なさって羨ましくもあり、憚りながら、それ故に慕わしくもある。 「私も、その頃に皆様と共に旦那様をお支えしとうございました」 「それでは今頃こんな年寄りだ」 「ちっともお年寄りには見えませんよ」  
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