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斜向かいに座ったジェイムズにそろりと視線を移すと、この人もまた窓の外を眺めるでもなく眺めている。憂いを帯びた横顔はやはり美しく、この人はいつまでも年を取らない。
「貴方は幾つになった」
「三十一です。去年三十だったんですから当たり前でしょう」
「そんな険のある言い回しは良くないよ」
「貴方が無神経なんです。今の私に年を聞くなんてあんまりだとは思わないのですか」
む………成る程朔夜は二十歳の年季明け間もない年頃。この人より十ほど若い。桐吾も自分より十五も若い子供のようなこの人を相手にきりきりしていたし、悋気を侮ってはいけない。しかし私が何を言っても今のこの人は悪いようにばかり受け取る気がする。もう大人しく黙っていよう………
「やはり都合が悪くなると黙られる」
「口を開ければ叱られ閉じれば叱られ。私はどうすればいい」
溜め息混じりに訊くと、ジェイムズはもぞもぞと尻で車内を移動して私の正面に座り直し、膝を突き合わせた。そして私の両手をぐいっと握り締めると、上目遣いに睨みつけて来る。
「お心変わりしたら彼岸で皆様に言いつけてやりますから……!」
この人は。操る言葉が丁寧になっても、私への情に素直な所は少しも変わらない。だが亡き人達を味方につけるとは狡い。帰ったら懲らしめてやろう。
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