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「昨日、エマの側でアヴェ・マリアを歌っていた?」
「え」
まさか聞こえた?あんなどんちゃん騒ぎしてたくせに。
「なんだろう。貴方の歌声は、どんなに小さくても耳に届くんだ」
「お気のせいにございましょう」
「そうかな……」
泥のように眠って、湯に浸かってさっぱりしたものの、旦那様は神妙な顔をしている。エマの懐妊の事は……いや、まだ内緒だった。
それにしても長い宴席だったなー。ご家族が引き上げてもまだ騒いでいたし、酒の力は怖ろしい。俺も夢も見ずに眠った。
「あの……怒らないで聞いて欲しいんだが……」
「はぁ」
まさか井作(さん)を屋敷へ住まわすとか言い出すんじゃないだろうな。怒らない訳ないぞ。そうなったら俺は出てくぞ。感謝とそれはぜんっぜん別物だからな。たとえ世間からどんな目で見られ、どんな酷い目に遭ったって構うもんか。
「貴方は志月をどう思う……?」
「志月様」
「いや、あの、あの………」
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