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第一章 不死身のボーイフレンド
誰にも迷惑をかけずに死ぬことは、誰にも迷惑をかけずに生きることと同じくらいに不可能だ。
そんな基本的な法則への理解が、西見藍生には欠落していた。
彼がこれまでに生きてきた十六年と数ヶ月は、彼がこれまでに人を頼り続けた年月と等しい。
他者に迷惑をかけることを咎めているわけじゃない。同様に他者から迷惑をかけられることだってあるわけで、持ちつ持たれつの生き方を否定する意図はない。
彼に限らず人というものは社会的な動物だから、独りで生きていこうとするとどうしても世間離れしなくてはならなくなる。突き詰めれば自然へと還ることになるけれど、その自然にも所有者がいるから、その人に迷惑をかけることになる。
住む場所でさえ契約のもとに成り立っている。完全な独立は在り得ない。
そんなことは西見藍生にだってわかっている。そのはずだ。そう信じたい。
でも彼が実際にどう理解しているかは聞いてみないことにはわからない。生きることの難しさを知っているのと同時に、彼は死ぬことの容易さも知っているから。
生老病死――人生における四つの苦しみと、その順序。
しかし彼にとって、死とは生きるうえの終点ではなく通過点なのだ。
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