第一章 不死身のボーイフレンド

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   ///  わたしは昔から同じ経験をたびたび繰り返すことがあった。  たとえば小四の夏休み。七月二十二日の朝から家にこもって宿題を半分以上終わらせた。そして昼ご飯を食べた後に少しだけ昼寝をした。  目を覚ますと朝だった。驚いて日付を見ると、七月二十二日。苦労して減らしたつもりの宿題も手つかずの状態なので、変な夢を見てしまったと思った。けれど昼食のメニューは全く同じで、宿題も全て夢の中で解いた内容だった。  この現象が俗にタイムリープと呼ばれるものだと知ったのは中学一年の頃だ。課題図書になっていた『時をかける少女』を読んだときにこの言葉を見つけた。  わたしの場合、タイムリープは偶発的に起こった。時間帯は昼から夜にかけてが多く、わたしの睡眠や意志とは関係なく唐突に時間が巻き戻る。再び時間が進み始める地点は、巻き戻しが長いときはその日の朝、短いときは十分前。  何が影響して起こるのか、巻き戻しが長くなるのかはまるでわからない。条件がわからない以上、わたしはそれを有効に活用することができない。  それどころか、同じことを二度三度繰り返さないといけない苦労は誰とも分かち合えないものだった。  何よりわたしは、ズルが嫌いだ。みんなが一度しか経験できないその日その時を、偶発的にとはいえ繰り返してしまうことに罪悪感があった。だからタイムリープによって既視感を覚えるたび、一度目とは違う行動をとりたい衝動に駆られた。  しかしその行動は大抵が失敗に終わった。一度目で起きた出来事の大半は二度目でも定まっており変えることができない。わたし自身も一度目からあまりに逸脱した行動をとろうとすると頭が真っ白になり、強烈な眠気に襲われる。  起こる出来事を変えることは諦めざるを得なかった。  わたしには繰り返されている出来事の記憶だけが残されている。テレビで放送されている数年前の映画を観るときみたいに、見知った物語をなぞるか途中で眠りに落ちるかの二択しかない。  そう思っていた。彼と出会うまでは。
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