第一章 不死身のボーイフレンド

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 持ち物のセンスをはじめ、藍生の外見からは中性的な印象を受ける。少年とも少女ともとれそうな細い体躯に明るいブラウンの髪色、鼻筋の通った顔の造形。もう少し目がきりっとしていれば面食いの女子から好かれるような容貌だったかもしれないが、残念ながらその瞳に活力が宿っている様子を見たことがない。 「また死んだでしょ」 「うん。トラックに轢かれた」 「だと思った」 「なので優しくしてもらえません?」 「やだ」  そもそも注意不足は自分の過失なのに、なぜわたしが労わらなきゃならないのか。  藍生はわたしと同じくタイムリープ前の記憶を保持している。そしてわたしと異なり、タイムリープ自体を起こす力も持っている。  ただしそれを使えるのは死んだ後だけ。  要するに藍生は今朝トラックに轢かれた後に時を巻き戻し、事故を回避して生存したのだ。  そんなことができるから、彼は死ぬことにまるで抵抗がない。命を危険に晒すような行為も平然とやってのけるし、たぶん自衛本能もお役御免になってしまっている。  ここでもしわたしが「死ぬような目に遭って可哀想に」とでも言ってしまったら、藍生はますます死に対する抵抗をしなくなってしまうだろう。  それはわたしの本意じゃない。まったくもって。 「遅刻もいいかげんなくす努力をしなさいよ。いくら賢くたって出席日数が足りなきゃ進級できないんだから」  この台詞も何度言ったことか。巻き戻しで繰り返される同じ内容の授業もつらいけれど、当人に効果のみられない忠告の反復はもっときつい。
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