第一章 不死身のボーイフレンド

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「まだその活動を続けていたんですね」 「彼はあまり話したがりませんが、遅刻や欠席の主な理由はそれによるものだと考えられます」 「あのバカ……」  薄々そんな気はしていた。交通事故に巻き込まれて死ぬようなことが、あいつの場合あまりにも頻発しすぎている。誰かしら困っている人を見つけたときに、遡って解決するためわざと命を絶っているのだろう。  考えれば考えるほど、正気の沙汰じゃない。たとえ不死身であったとしても、たまたま行き会った他人のためにどうしてそこまでできるのか。  藍生は主人公なんかじゃない。自分の命を粗末にするようなやつが、ヒーローであっていいはずがない。 「それで、先生たちはあいつの活動を見過ごすんですか」  自然と強くなる語気を、木野先生はもっともだと言わんばかりに頷く。 「どんな理由であれ、本分である学業を疎かにすることは許されません。ですが西見くんの場合テストの成績にもけちのつけようがない。だから唯一の問題点である出席日数の不足を補うため、という口実で彼を縛ることにしました」  縛る、とはまた物騒な言葉選びだ。木野先生らしいといえばらしいけれど、そろそろ他の先生からの突き刺さる視線にも気がついてほしい。 「私は彼に、これまで通り活動を続けていっても構わない、と言いました。ですが見ず知らずの人々を助けるだけじゃなく、見知った私たちも助けてほしい、と提案したのです」 「それがさっき言っていた約束ですか」 「はい。ひとりの生徒が教師の補佐をすることで遅刻欠席を見逃されている、なんてことが他の生徒に知れたら大変ですからね」 「じゃあ、どうしてわたしにはばらしたんですか」 「え?」  意外そうな表情をされる。 「だって、仲良井さんは西見くんの保護者でしょう」 「保護者じゃないです」 「彼のこと、見守ってあげてくださいね」 「だから保護者じゃないです」  この流れはまずい。非常にまずい。  木野先生が何を言おうとしているのか、わたしにはわかる。内密にしていた事情を明かす意味とは、半ば強制的に自陣営へと引き入れるために他ならない。  要するに現状は盤石ではないのだ。教師たちは扱いに困る生徒である藍生に首輪をつけようとしたが、それだけではまだ不十分だった。ゆえにリードの持ち手が必要になったということなのだろう。  たまらずため息をつく。まったく、あいつの傍にいる理由には事欠かない。 「わかりました。藍生の活動を監視していればいいんですよね」 「理解が得られて幸いです」  思惑通りだということを隠そうともしない木野先生。裏表のなさも極まれりだ。 「それにしても仲良井さんは面倒見がよいですね。本当に彼とは恋仲ではないのですか?」 「はい。そういうのじゃありません」  この関係性はもっと一方的な、わたし自身の願望のためにある。 「わたしはあいつに、自分のために生きてほしいだけです」
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