3人が本棚に入れています
本棚に追加
///
木野先生の意向に従って、藍生から活動について言いだすのを待っているうちに一週間が経過していた。
その間にわたしの身に何も起きなかったかというと、そうでもない。包み隠さず言えば、とある男子に告白されてしまった。
別のクラスの、背の高い男子だった。確かバスケ部に所属していて、スタメン入り? とやらもしょっちゅうしていると聞いていた。
告白のシチュエーション自体は無難な感じで、授業が終わった後にひと気が少ないほうの階段の踊り場へ呼び出された。対面した彼は短髪がワックスで立ち上がっていて、快活そうな雰囲気がありありと表れていた。
「去年から好きだった。付き合ってほしい」
開口一番からの告白。わたしは返事するよりも先にまず感心した。用件を最初に述べるというのは、簡単なようでなかなかできることじゃない。
次に返事の言葉を考える。できれば穏当な形で済むように。そのためには彼がどんな思いで告白してきたのかを掴まないと。
「わたしに彼氏がいることは知っているんだよね?」
この台詞は定型句のようなものだった。真摯な告白に対して大嘘で返すことになるけれど、誤解を解いていないのはわたしの意志なので今更な話だ。
「ああ。でも、俺はきみのことが好きだ」
「わたしにはもう好きな人がいるんだけど」
「それでもだ」
うーん、このタイプか。
想いを伝えたいという気概はわかるのだけれど、一緒に伝わってくる自信が満ち溢れすぎていていまひとつ響かない。
今度は声のトーンを下げて、警戒色を強めてみる。
「わたし、あなたのことをよく知らない」
「これから知っていってほしい。後悔させないと約束する」
「それは今のわたしの彼よりも自分のほうが優れているってこと?」
「当然だろ?」
得意げに、まるでそれが親から長年伝え聞かされてきた事実を語るような顔で、バスケ部の彼は言った。
最初のコメントを投稿しよう!