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「さすがにちょっと疲れたな」
早朝から休憩を入れつつもぶっ通しで走り続けてきた二人は、津軽海峡を結ぶフェリーの上で一息ついていた。
「んー、でも、楽しかった」
聖は、10時間以上に及ぶツーリングにも疲れを見せず、キラキラとした瞳で海風に髪を揺らしている。
「北海道の道走るのも、めっちゃ楽しみ」
龍大の友達が快く宿を提供してくれることになったので、連休初日からこうして北の大地を目指して走ってきたのだ。
明日から、その友達の家を拠点に、北海道観光三昧の予定の二人だ。
長距離走行なんてなんのその、だ。
ワクワクとドキドキしかない。
龍大は、そっと横に立つ聖の横顔を眺める。
大学入学と同時に、友達を卒業して恋人に昇格して貰ったが、まだそのひととは手を繋ぐのが精一杯の関係だ。
この旅行で、あわよくばそれ以上の関係になりたい、と密かに思っているのだが、奥手で無邪気な聖が、どこまでそういう男の心理をわかっているだろうか。
そして、旅行と言っても、宿は友達の家だ。
さすがに、寝ている友達の横でいかがわしい行為をするわけにはいかないだろう。
そこまで焦るつもりはない。
せめて、キスぐらいできたらいいな、というささやかな野望だ。
「タツ、見て!陸地が見えてきた…北海道だ」
はしゃぐ聖が眩しくて、龍大は目を細める。
柵を掴むその手に、そっと自分の手のひらを重ねると、聖はびっくりしたような顔で振り返ったが。
少しの間、視線が交差して、そして。
ほんのり頬をピンクに染めて、そのまま、また海のほうを向いた。
嫌がられなかったことにホッとすると同時に、たったこれだけで照れくさそうにする聖が可愛くて堪らない。
「向こうに着いたら夕飯だな…何食う?」
やっぱ海鮮?それとも、ラーメン?
手を重ねたまま、背中から覆い被さるような格好で、耳許にそう尋ねる。
「んー、やっぱ海鮮かなあ?」
お腹減ってきた。
手を重ねることは恥じらうくせに、身体が密着するのはあまり気にしないのはなんでだろうか?
友達でも有り得るシチュエーションなら気にならないということなのか。
一日フルフェイスのメットをかぶってバイクを走らせていたからか、聖の襟足からは仄かに汗の匂いがする。
その体臭が、逆に龍大の劣情を誘って、彼は少しソワソワした。
「つーか、アチィよ、タツ。そんなくっつくなって」
龍大の内心の思いになんか、まるで気づいていないのであろう聖は、ゴツンと後頭部を龍大の胸にぶつけてくる。
「そろそろ着くんじゃね?中入って降りる準備すっか」
人の気も知らねえで、全くもう。
龍大は口の中でブツブツと呟きつつも、さっさと船内に戻って行く聖の後を追いかけた。
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